□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ [2004/12/27]            【子 育 て 羅 針 盤】                              (第221号) □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ ■徒然子育て想■              『学力の地盤?』  日本の子どもは言葉の理解力が諸外国との比較で相対的に低下してきたそう です。義務教育の段階では世界に冠たる評価を得てきたのですが,高等教育並 みに弱さを露呈してきたということです。実のところ,学力に関しては学校だ けが責任を負うものではなくて,国全体の教養程度が土台になります。教育は 栽培に似ていて,いくら教育ががんばってみても,育ちの土地が痩せていては その効果は期待できません。  全ての人が新聞という文字情報を日常的に活用できていた時代の基礎的な学 力は大したものです。その上に教育があったのですから,優れていて当たり前 でした。ところが最近は活字離れが進んできて,頭脳回路が感覚的な機能だけ に片寄って発揮されています。感覚的な能力は数値として捉えることができま せん。学力評価としては理性的な機能の発揮が必要です。読解力の低下は,子 どもたちが感じる人になっていて,考える人にはなっていないということを示 しています。  文化教養という言葉はすっかり廃れています。大衆迎合文化が定着している 現状では,学力の低下は地盤沈下のあおりを受けて当然の結果です。教育現場 がゆとり教育や学力向上と揺れ動いている混乱のせいであるというコメントも ありますが,それは大局を見失っています。この国全体の知的沈下が起こって いることに目を向けるべきです。みんなが沈めば怖くない,この国のものは誰 も気がつかないのです。外国と比べて始めて見えてきたということです。  この羅針盤の立場で考えると,大人はこれまで子どもを育ててきたのですが, もう一人の子どもを育て忘れてきたということができます。もう一人の子ども は言葉を糧にして育っていますが,言葉は知恵の糧でもあります。言葉の理解 力が低下しているということは,言葉という糧を十分に租借できないことであ り,当然のこととして知恵も身に付かないということになります。もう一人の 子どもが人としての育ちであることを思い出すと,大人になるための教養はす っかり廃れています。  そんな大きな状況があるにしても,私はどうすればいいのということが問題 です。できることから着手するしかありません。暮らしの会話を豊かにするこ とです。誰かが話しているときはおとなしくじっくりと聞く,その上で自分の 意見をつないでいくという基本スタイルを守ればいいのです。お互い相手の話 とはつながりもなく,ただ自分の意見だけを言い合っている,それでは言葉の 醸し出すニュアンスの個人的限界が体感できません。会話はお互いの言葉を確 認しあいながら展開するものです。 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ ★子育て12章★     【お子さんは,自分で自分をほめることがありませんか?】                             (質問17-13) ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  ○自尊感情  1990年の2月,小学一年生の男の子を殺害した17歳の少年が,少年刑 務所から28歳になって出所しました。2001年に住居侵入で実刑となり, 2004年7月に下校中の女児にいたずらをしたという強制わいせつ容疑で逮 捕されています。彼の生い立ちを追っている記事が「西日本新聞」に連載され ています。「褒めてほしかった」という見出しの下に,小学2年生の運動会で 一等賞になったとき「すごい,すごい」と褒められ,たった一度の笑顔を見せ たと伝えています。  人が人生の中で選択をする場面に入り込んだとき,自分の中にあるものを拠 り所にします。それは親や先生,友だち,周りの大人の中の誰かが褒めてくれ た自分です。褒めた当人は忘れているかもしれませんが,褒められたほうはじ んと心に刻み込んでいます。自分を褒めることができるからです。自尊心,自 分を尊ぶとは,褒められる自分を意識することです。自分のことは分かりにく いものです。人に褒められてはじめて自分が見えてきます。  「上手ね」と声を掛けてやると,「すごいでしょ」と得意げな様子を見せて くれます。もちろん褒め殺しというあくどいことはいけませんが,きちんと褒 めてやることが子どもを大きく伸ばします。子どものよいところを伸ばすとい う子育ては,なかなか定着しません。それはできないことがいけないことであ るという刷り込みがあるからでしょう。さらに,子どもには褒められるような ことをするのは簡単ではないという事情が重なっていきます。叱る育ては手抜 きです。  年配の大人は「今時の若者にはハングリー精神がない」と,覇気のなさを取 り上げて批判します。時代の背景が替わっていることを見落としています。昔 の人が飢餓の恐れからの脱出意欲に駆られているときには,叱咤激励というし つけの手法が有効でした。叱られても今に見ていろという反発力を貧しさが育 てていました。負けたらそれは食べられないことを意味するような切羽詰まっ た状況であったのです。生きることに直結した厳しさがありました。  今の時代はがんばらなくても生きていくことができます。親がいつまでも抱 え込んでやれるからです。そんな豊かな状況では,叱咤激励という手法は反発 を招くか,落ち込ませるだけの効果しか持ちません。できなくても逃げていれ ばなんとかなると見越しています。面倒なことを言う親元を離れても,食べて いくのに苦労しないと甘い見通しを持たされています。伸ばす子育て,褒めて やることで,子どもが自分を褒められるようにし向けることが求められていま す。  ・・・《叱って追いつめるのではなく,褒めて伸ばす時代になっています》 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞  ○育ちの青信号  ものも言いようで角が立つ。世間のお付き合いでは,気配りをしなければな りません。「寒くなりましたね」,「冬ですから」。そんな返事を頂くと,ち ょっとばかり出鼻をくじかれますね。「うちの子は元気すぎて」,「そうでし ょう,うちの子が突き飛ばされたんですよ」。たとえ親しくしていてもケンカ になります。乱暴な子=元気のよい子,内気な子=優しい子,のろまな子=慎 重な子,性急な子=機敏な子,物差しを換えれば,心配な面も伸ばしたい面に 塗り替えることができます。  よそのお宅にお出かけしたとき,我が物顔でソファーの上を飛び回る子ども がいます。やんちゃな子どもを叱りつける親に,「男の子は元気があるほうが いい」と取りなしてもらえます。でも,それは本心ではないでしょう。行儀の 悪い子と思われています。行儀をしつけるときに,「ダメよ,おとなしくして いなさい」と言ってはいませんか。おとなしくなったとき,それ以後のしつけ が滞っていませんか。  おとなしくしているのはちゃんと我慢できているからです。その我慢をきち んと認めてやって,「偉かったね」とフォローするしつけが無くなっています。 おとなしくしている子どもは,「お利口にしてるね」と褒められて,お菓子が もらえるかもしれません。ちゃんとできたらいいことがある,少なくとも褒め られるという快感が得られる,そこまで届くしつけが求められています。おと なしくしていても何にもない,それではおとなしくしている意味が見えなくな ります。  褒めるというしつけによって,子どもは自分の育ちの正しさを認知し,自信 がついてきます。逆に叱られてばかりだと,自分はどう育てばいいのか,先が 全く見えません。自分を不安に思い,心を閉ざしていくか,「どうせ」と開き 直っていくしかなくなります。そっちに行っちゃダメ,その黄色の指示は足を 止めさせます。そっちはいいことよ,その青色の助言は背中を後押ししてやれ ます。叱るのは赤信号,褒めるのは青信号,そして育ちは前進を続けることで す。  子どもが自分を褒める,それは育ちのアクセルを踏むことになります。育ち にも進入禁止や一方通行,飛び出し注意や制限速度といった守るべき標識があ ります。それらを守った上で,やはりアクセルを踏まなければ,育ちの道を走 行することはできません。走る楽しさを知ることが,最も大切なしつけになり ます。育って当たり前ではなくて,育ってうれしいという気持ちが育ちを促し ます。褒めることがないという言い訳が聞こえますが,それは親としての役割 放棄になります。   ・・・《ママ,できたよ,そのうれしい声が自分の育ちを褒めています》 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞  《子育てには,自走する育ちを整備してやる褒め言葉があります》 ※大きくなったね。その言葉を子どもはうれしく聞いています。お兄ちゃん, お姉ちゃんになれたんだと,自分に言い聞かせることができます。まだまだで きないことがいっぱいあるけど,ちゃんと育っているんだ。その自信が次の育 ちへのスタートになります。目覚まし時計を与えると,自分でちゃんと起きて きます。「起きれたね,偉いね」。「明日も自分で起きてくるからね」。「い つまで寝てるの」と起こしていては,叱るばかりです。褒めることができるよ うに,仕掛けが必要です。  幼い頃は自然に褒めていたはずです。それは我が子の育ちがうれしかったか らです。でも,大きくなってくると,育てなければという責任のようなものに いつの間にか変質しているからです。子どもが自立できるような環境を整えて やらなければなりません。片づけができるように箱や棚をかわいく整えましょ う。靴の脱ぎっぱなしが無くなるように,靴の絵を床に描いておきましょう。 こうすればいいのよ。その誘いに乗れたら褒めてやる。育ちを楽しく演出しま しょう。 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ ★編集後記★  2004年,最後の号であり,17版の最終号です。この一年,ご愛読を頂 きありがとうございました。お陰様で配信を休むこともなく,完配できました。 もっともできのほうはいささか不安ではありましたが,クマさんなりに一所懸 命であったことは本人の口から申し添えておきます。クリスマスも終え,後は 大晦日を迎えることになります。どうぞよいお正月をお迎え下さい。皆様のご 多幸をお祈り申し上げます。  子育て羅針盤の第18版は,1月3日からお届けする予定です。お正月です が,クマさんは暇なので,週刊マガジンということに拘っています。それと子 育てにはお休みはないということでもあります。来年も引き続き愛読いただけ ますようにお願いいたします。また,ホームページのほうには掲示板を用意し ております。直接の対話ができますので,お気軽に利用なさって下さい。お待 ちしております。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ ☆予告☆  次号では,【お子さんから,大嫌いと言われることがありませんか?】             について考えることにします。どうぞお楽しみに! □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ ●タイトル:『子育て羅針盤』 [Kosodaterasinban] ●発行期日:毎週月曜日正午(2000年09月25日より) ●発行責任:モリのクマさん(詳細はHP「徒然窓」〜プロフィールに)   「徒然窓」= http://www5a.biglobe.ne.jp/~mbear    ・・・・・・「掲示板」もご相談などにご利用下さい。・・・・・・ ●記事の一部、もしくは全部の無断転載・無断配布を禁じます。  掲載記事の著作権は筆者に有り、筆者の許可なく複製・再配信等を行う  ことはできません。事前に下記アドレスまでメールのご一報を下さい。 ■《講演》のご依頼は,メールで気軽にお問い合わせ下さい。 ※著者へのメッセージ: mori-bear@mvd.biglobe.ne.jp ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ ●配信の協力を頂いている発行支援システム ◆インターネットの本屋さん『まぐまぐ』= http://www.mag2.com/   登録・解除= http://rap.tegami.com/mag2/m/0000046251.htm ◆メルマ***『melma!』= http://www.melma.com/   登録・解除= http://www.melma.com/mag/37/m00019737/ ◆無料メルマガ発行サービス『メルマガ天国』= http://melten.com/   登録・解除= http://melten.com/m/2166.html ◆よりすぐりメルマガサイト『めろんぱん』= http://www.melonpan.net/   登録・解除= http://www.melonpan.net/mag.php?005885 ※解除される方は,登録された配信先の解除手続きをして下さい。 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○