□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ [2005/05/02]            【子 育 て 羅 針 盤】                              (第239号) □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ ■徒然子育て想■               『言葉!』  熊本にギター和尚と呼ばれる渡辺さんという住職がおられます。その方の本 にこんな話がありました。「ある刑務所でアンケートをとったそうです。罪を 犯してしまった人の割合は「食う」と言っていた家庭から70%,「食べる」 と言った家庭から30%,「頂く」と言っていた家庭からは一人もいなかった そうです」。下世話な感覚では暮らしぶりのランクと重なっているようですが, それだけでもないようです。  黙っている人は人となりが見えませんが,話してみるとどんな人かがおよそ 見当が付きます。化粧は人を飾りますが,言葉遣いは心を飾ります。身繕いを きちっとすると姿勢がシャキッとしますが,言葉遣いをちゃんとすると気持ち がたおやかになります。ぞんざいな言葉遣いをしていると,心がささくれ立っ ていきます。何もお上品な言葉遣いを勧めているわけではありません。美しい 言葉を普段の暮らしの中で自然に使うように気配りをすればいいのです。  たくさんの人の前で話さなければならないとき,普段とは異なる言葉を使わ なければならないという強迫観念が生まれませんか? いわゆるちゃんとした 言葉遣いは日常言葉とは違うと思うからです。ところが若い人から子どもまで, 人前でも堂々と話しています。今の若い人は,といううらやましさを口にする 方もおられます。テレビのバラエティ番組などでも,普段の語り口が通用して いるように見えます。でも,実のところ,その言葉は二流になっています。  子どもたちの言葉の貧しさは,心の貧しさに反映します。言葉の貧困は心の 狭さにつながります。ちょっとした一言にキレルという過敏さも,言葉に深み を持ち合わせていないせいです。直裁に言うことが素直な表現という手抜きを するから,言葉に角が立つようになります。人の気持ちは複雑です。何と表現 すればいいのか分からないことが多いはずです。たくさんの言葉を重ねて,や っとなんとなくそれらしい表現ができるでしょう。言葉少なくてはすれ違いだ けが起こります。  文章を声に出して読むというブームが起こりましたが,美しい言葉を語感や リズム感を通して身体にしみ込ませるという作用です。ブームになった背景に は,目で見る言葉と口にする言葉が乖離しているのではという素直な直感を多 くの人が抱いていたことがあります。食べ物は良く噛んで食べる,同じように 言葉はよく口に出して話すという作法の復活です。目で追えば言葉の上辺をな ぞるだけ,口にすれば言葉を血肉として取り込めるということです。 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ ★子育ち12軸★        【聞いてやるから,話せる子どもに育ちます!】                               《WHEN-1》 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  ○第5軸:聞いてやる  子どもの話は要領を得ないことがあります。ママは分かりがいいので,たい ていのことは了解できます。その分かりの良さが,言葉の訓練をする機会を奪 うことになります。子どもが一言いえばそれで通じてしまうのでは,きちんと 伝える苦労がないからです。ママ以外には分からないことになります。どう言 えば思いを分かってもらえるのか,その気配りが言葉遣いを豊かにするはずで す。なるべく言葉をたくさん引き出すために,気長にゆったり聞いてやってく ださい。  先生が,国語の授業で太宰治の走れメロスをやりました。教科書にはメロス が懸命に走る姿の挿絵まで丁寧に載っていました。一通り読み終わって,メロ スについて気が付いたこと,思ったことを述べるように質問をしました。その 質問に対する生徒の答えは,「メロスは天然パーマだった」,「メロスは男な のにスカートをはいている」,「しかも超ミニだ」等というものだったそうで す。  文章,つまり言葉が子どもの脳裏に届いていないということです。挿絵・映 像に対する感性だけが特化されていて,言葉が醸し出す情感に不感症になって います。視覚と聴覚のバランスがチグハグになっているというのは,言葉を聞 くという体験の不足を暗示しています。子どもが多くの時間付き合っているテ レビ視聴では,映像が主で言葉は付属するものでしかなく,かなり省略されて います。テレビとラジオの野球中継を比べると,ラジオの方が圧倒的に言葉が 多く必要です。  百聞は一見にしかず。例えば,象とはどんな生きものか,について言葉でど れほど説明しても,実際に見ることには及ばないでしょう。でも,見えないも のは見ることができません。見えないものはたくさんあります。善いとか悪い とか,美しいとか醜いとか,信頼や思いやりといった生きていく上で大切なも のは見えません。それを理解し身につけるためには,言葉に頼るしかありませ ん。暮らしのひとこまひとこまから切り取って,親子で言葉を磨いてください。  言葉だけで伝える,分かり合える,それができるとき,言葉自体に命が吹き 込まれます。生きた自分を表現するには,生きた言葉でなければできません。 そのことに気付かせる親の役割は,じっくりと子どもの言葉を聞くという態度 です。足りない言葉があれば補ってやり,ずれた言葉であれば言い換えてやり, 間違った言葉であれば正してやります。そのようなきめ細やかな言葉のしつけ は,言葉を丁寧に聞く中でのみ可能になります。  ・・・《聞いてやるというしつけが,美しい言葉を教えることになります》 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞  ○会話!  幼い子どもの話しぶりを聞いていると,ママに似ています。そんなことはな いと思われるかもしれませんが,他人との違いに比べて,親子の違いは小さい のです。ということは,しっかりと聞かれているということになります。言葉 の基本的なしつけは,ママがしているのです。やがて,外の世界に入っていく ようになると,ママが教えていない言葉を覚えてきます。中にはママがお気に 召さない言葉もあることでしょう。  ママにしかできない役割があります。子どもが手当たり次第に拾ってきた言 葉を,会話の中で選別することです。素敵な言葉であれば,しっかりと聞き取 ってやります。望ましくない言葉であれば,そっと脇にどけておきます。ママ に対しては使えない言葉があるということを教えてください。新しく言葉を拾 うときに,ママの嫌いな言葉を判定する見本として,どけたおいた言葉が参考 になります。差別語なども使えない言葉として,覚えておかなければなりませ ん。  ママとの会話がどこに出ても恥ずかしくない会話のお手本であれば,子ども は話すことに自信を持つことができます。もしも,ママとお話しているように よそで話したとき,ほめられたりすることがあれば,うれしいことですね。き れいな言葉遣いは,ママとの会話から始まります。普段から使い慣れていない と,緊張して疲れたり,口ごもったりして失敗します。いざというときにちゃ んとすれば,それは無理なことなのです。  お父さんに手を引かれて歩いていく幼い女の子がスキップをしています。幼 い歩幅は短いので,スキップをすればペースを合わせることができます。お父 さんと一緒に歩くのも今のうちとは思いますが,楽しい会話が弾んでいるのは 父子の旬の時期でしょう。同じ風景を歩くことで,交わされる言葉はぴったり と重なっています。子どもがどんなことに関心を示すのか,きちんとした理解 がはかどるはずです。子どもの目線に添った会話の確認プロセスです。  子どもと話していると,子どもは詩人だなと思うことがあります。大人には 思いつかない言葉の使い方をします。お空が泣いているよ。空が泣くはずない じゃないの。風が走っていったよ。風は吹くものでしょ。理屈に合わないこと を言えば,すぐにダメ出しが入ります。それは間違ってはいないのですが,あ まり杓子定規にならないようにしませんか。普段の会話は授業ではありません。 子どもの直感的な言葉遣いも,案外と楽しめるものですよ。  ・・・《お互いを生かす会話とは,共感できる言葉が行き交うことである》 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞  《子育ては 交わす言葉に こころ添え》 ※子どもは興味のあることについては,たくさんの言葉を覚えます。大人が知 らない言葉まで仕入れてきます。教えを請うと,ちょっぴり自慢げに教えてく れます。もちろん,それらの言葉に深みを持たせるところまでは踏み込んでい ません。知っているというだけの表面的な理解であることには目を瞑りましょ う。詳しい意味まで知らなくても,いろんな言葉があることを体験しておくこ とが大切です。覚えて忘れて,それでいいのです。  家庭の暮らしの中では,言葉の数が少なくなるという傾向があります。用事 に関する言葉だけが行き交ってはいませんか? テレビを消して,家族で会話 をすれば,パパの言葉,ママの言葉,子どもたちの言葉,少なくとも三種類の 言葉が融合します。世代間の気持ちの触れ合いが薄れてきている原因は,世代 間をつなぐ言葉が貧困化しているからです。豊かな言葉がなければ,人のつな がりは細くなっていきます。先ずは,親子世代間のつながりを太くすることか らはじめましょう。 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ ★編集後記★  5月2日,ゴールデンウィークの途中に孤立している普通日です。すんなり と蹴飛ばして,連休にしていらっしゃる方も多いことでしょう。非常勤で講義 をしている国立大学では休校日として織り込み済みです。学生さんの気分が落 ち着かないからという温情?ではありません。他の曜日が休日のために,月曜 日だけ講義日数が1日多くなるのを避けて横並びにするためです。時間割が週 で組まれているといういたって便宜的な扱いです。  かつては,講義が休講になると,学生さんは喜んでいたものです。ところが, 最近は大学も厳しくなってきて,休講があると必ず補講で補わなければいけな くなっています。講義日数が減ることは許されないのです。本来はそうあるべ きなのですが,「残念!」ということでしょうか? 講義をする方からすれば, 講義時間数が確保されますので,安心です。きっちりと専門の言葉群を伝授で きます。言葉というより,数式が主ですが! ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ ☆予告☆     次号では,【話しているから,知恵を生かそうとします!】             について考えることにします。どうぞお楽しみに! □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ ●タイトル:『子育て羅針盤』 [Kosodaterasinban] ●発行期日:毎週月曜日正午(2000年09月25日より) ●発行責任:モリのクマさん(詳細はHP「徒然窓」〜プロフィールに)   「徒然窓」= http://www5a.biglobe.ne.jp/~mbear    ・・・・・・「掲示板」もご相談などにご利用下さい。・・・・・・ ●記事の一部、もしくは全部の無断転載・無断配布を禁じます。  掲載記事の著作権は筆者に有り、筆者の許可なく複製・再配信等を行う  ことはできません。事前に下記アドレスまでメールのご一報を下さい。 ■《講演》のご依頼は,メールで気軽にお問い合わせ下さい。 ※著者へのメッセージ: mori-bear@mvd.biglobe.ne.jp ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ ●配信の協力を頂いている発行支援システム ◆インターネットの本屋さん『まぐまぐ』= http://www.mag2.com/   登録・解除= http://rap.tegami.com/mag2/m/0000046251.htm ◆メルマ***『melma!』= http://www.melma.com/   登録・解除= http://www.melma.com/mag/37/m00019737/ ◆無料メルマガ発行サービス『メルマガ天国』= http://melten.com/   登録・解除= http://melten.com/m/2166.html ◆よりすぐりメルマガサイト『めろんぱん』= http://www.melonpan.net/   登録・解除= http://www.melonpan.net/mag.php?005885 ※解除される方は,登録された配信先の解除手続きをして下さい。 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○