《健康を しっかり守る 舌感度》

 連れ合いが旅行先で買った私へのお土産の煎餅を,味見のつもりでしょうか一枚食べて「おいしいわよ」と満足気です。二枚目を食べて「それほどでもないみたい」。さらに三枚目を食べた後「もういい」と手を止めました。その変化ぶりがまことに鮮やかで,何ともかわいいものです。
 休日の買い物でも似たようなことがあります。夕食前に行くと,「お腹の空いたときに食料品を買いに来ると余計なものを買い過ぎるわね」と言いながら,かごをいっぱいにしています。確かに実物が目の前に並んでいると,ついあれこれと手にとってしまいます。これが昼食後だと買いすぎることはありません。
 仕事をすませた後のビールはうまいと誰もが言います。最初の一杯は確かにそうですが,二杯目からは惰性のようです。その段階で徐行しブレーキをかければ飲み過ぎは防げるはずです。腹がふくれると味覚に馴れが出て,やがて飽きがきます。食欲はセーブされます。ところが味を楽しむという美食趣向が,手を変え品を変え味覚の限度をクリアしようとします。そのめくらましに惑わされてつい食べ過ぎ,あげくはダイエットという不自然な養生を背負い込みます。
 学校から帰ってきた子どもが「おなかがすいた」と訴えます。親はちょっとしたおやつを与えて,その場をしのごうとします。夕飯時には子どもの味覚は鈍くなっているのでおいしさが分からず,食がすすみません。「おなかがすいた」と言ってきたら,「そう,おなかがすいたの。お母さんもよ」と受け止めるだけでいいでしょう。きっと夕飯がおいしく食べられるはずです。子どもの味覚を大事に育てることも,子どもの健康を願う親の役割です。

(No.49:リビング北九州:98年6月27日:1261号掲載)