*****《ある町の社会教育委員の活動》*****

【第8章 社会教育関係団体への補助削減について】

 次年度の予算案を編成するに当たり,行政当局は財政の削減を図る一端として「全ての補助の6%以上削減」という方針を通達してきました。教育関連では,中央公民館の老朽化に対処するために生涯学習センターの建設が数十億円の予算で建設されることになっており,大きな財政支出になっています。全体のパイが減る状勢の中で,その建設負担を考慮すれば,どこかで我慢すべきであるという感覚が現実感覚として存在しています。
 しかしながら,それは例えば,ごちそうしてやったから言うことを聞けという悪代官の手法と同じです。全く次元の違う話を結びつけた屁理屈です。きめ細かな行政態度が主流になろうという時勢に逆行します。なによりもしてはいけないことは,一方的な押しつけです。少しばかりお金が足りないので皆も節約を考えて欲しいという猶予と協力のステップを設定すべきです。

 社会教育委員の会は,社会教育関係団体の活性化を図る立場にあります。それが,教育委員会は社会教育関係団体に補助をするときには社会教育委員の会の意見を聞かなければならないという社会教育法第13条の意味でしょう。
 これまで,教育委員会から社会教育委員の会に補助について尋ねられたことは一度もありませんでした。こちらから問わなければ,補助がどうなっているかということさえ報告もありません。最近は定例の会議で議題として取り上げていますので協議にかかるようになりましたが,それでも補助額の査定にまでは至っておりません。補助というものに対する理念や配分ルールなどが存在しないので,査定のしようがないのです。現状を認知することで精一杯です。
 ところが,今回は削減という動きが持ち込まれてきました。否応なしに補助について考えざるを得ない羽目になったのです。いずれ訪れると予期はして各団体の代表者には警告をするなどしていましたが,体勢を整える前に降りかかってきたために,取りあえずは削減そのものに対する態度を決めることに終始しました。身に降りかかってこなければ真剣になれないという弱さを露呈したわけです。
 社会教育委員の会としては,この課題をどのように受け止めるか,泥縄の進言をすることになりました。現状の補助額に対する明確な理論付けができないままでは,根拠薄弱の観は否めませんが,なによりも補助に対して社会教育委員の会が教育委員会にもの申すチャンスと捉えて,敢えて進言をすることに踏み切りました。苦渋の進言がどのようなものであったか,以下に提示しておきます。


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平成15年度 ○○町社会教育関係団体への補助について

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平成14年12月19日

○○町教育委員会
 教育長 ○○ ○○ 様
○○町社会教育委員の会
会長  ○○ ○○

平成15年度 ○○町社会教育関係団体への補助について

 ○○町の生涯学習によるまちづくりに向けて,着実な進展が行われていることをお喜びいたします。
 さて,社会教育委員の会におきましては,社会教育法第13条の責務を全うするために,社会教育関係団体への補助について12月18日の定例会議で審議を行い,以下のような結論に至りましたので,進言させていただきます。よろしくご高配下さいますようにお願い申し上げます。

【状況分析】
 ○14年3月議会における町長の施政方針より抜粋
 現下の地方行財政を取り巻く状況は極めて厳しいと言わざるを得ません。健全財政を維持していくためには,事業効果のある事業には積極的に取り組み,事業効果が薄いものは見直しをするなど,将来の財政基盤を確固たるものにしていかねばなりません。
 体育行事の町主催大会を開催するとともに,体育協会主催大会等を支援し,町民参加の機会確保を図ります。
 本年度から学校の週五日制が完全実施されますが,「育てよう,心豊かな○○の子ども」を合い言葉に,家庭・学校・地域の連携がさらに強固になるよう努めます。そのためにも,子ども会育成会,青年団・空と海の会等の青少年育成団体の支援と,その指導者の養成に努めます。
 自分をみがき,そして愛される社会人であるためにも「生涯学習」の重要性は増すばかりです。そこで,新時代に対応可能な機能の充実,個人の学習活動や地域・社会教育関係団体等の活動の充実を図り,真の生涯学習拠点施設となるよう,生涯学習センターの建設に着手します。(以上)

 町政が願う町民の姿は社会教育がめざす姿そのものです。社会教育の活力が衰えるようなことがあれば,それは町の活力の低下に直結します。幸い生涯学習センターの建設に見られるように,社会教育への支援は一層進展することが期待されています。しかしながら,ハード面の整備だけでは詰めを欠くことになります。センターを活用するソフトの充実が不可欠ですが,それはひとえに社会教育関係団体による活動が担っています。
 このような判断のもとで,「社会教育関係団体への補助」が予算作成上の削減方針にかかる件について,以下のような審議の結果を得ました。

【社会教育関係団体への補助についての進言】

 「○○町社会教育委員の会は,平成15年度の社会教育関係団体への補助予算について,削減する措置は適当ではないと判断します。」


【進言に至った理由】
○「事業効果のある事業には積極的に取り組み,事業効果が薄いものは見直しをする」の方針がある以上,「補助一律削減」というやり方は町政方針の無視に当たり,とうてい納得できるものではありません。なによりも,効果があるかないかの行政説明責任を放棄することになります。
○社会教育関係団体への補助の削減は社会教育への期待の後退を意味し,町の活性化に積極的に寄与してくれている核になる町民の意欲を減退させることが危惧されます。
○財政上の逼迫が避けられない状況にあることは町民も理解していることであり,各団体でもそれなりの経費の削減に取り組むべきです。例えば,各団体が縦割りで実施している類似事業の統合化を図ることなどが考えられますが,そのような動きを指導することもなく突然の補助削減は団体による事業の消失を招く恐れがあります。少なくとも猶予期間が与えられるべきです。
○仮に名目的に何らかの削減を強行する場合には,実際上の補填を考案する必要があります。例えば,機具・用具類を町予算による備品として購入し必要な団体に貸与することで削減分を肩代わりするとか,今後必要になると思われる施設使用料という名目の補助を新設するとか,団体による出前講座事業を創設し経費補助として支援するとか,目に見える補助が可能であり,同時に町民活動としての誘導もできるはずです。

○従来の補助のあり方を再検討する時期であるとも思慮されます。ボランティア団体の台頭も盛んであり,新たな補助対象も増えてきます。複数の行政担当課にまたがる団体も現れており,複数の補助を得られるケースも現れています。その是非も含めて,基本的な補助規程の策定が必至だと思われます。そのことに着手をしない限り,今後も「一律削減」という無策とも思われかねない荒技に頼らざるを得なくなります。
○事業効果を問われる趨勢は今後もより一層強まるものと思われます。それに対処するためには,補助がどのように生かされているかを明らかにする必要があります。可能な方策は,名前の付いた費目補助にすることです。例えば,小規模では,個々の団体そのものへの研修補助,運営補助など,大規模では団体にまたがって,生涯学習推進費という大きな予算枠を設けて,各団体による個別の学習活動を支援することなども考えられます。

 社会教育関係団体の町行事に対する寄与は大きなものがあることは周知のことです。そのことを十分に評価する立場にある当委員の会の進言を,よろしくご検討いただきますようにお願い申し上げます。

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《進言の後で・・・》
 教育委員会で取り上げるとの返事を頂きましたが,結果はどうなったのでしょうか?

 1月の当初に行政当局での予算策定が終わり,教育長が社会教育委員の会に出席して進言に対する回答をして頂けることになりました。進言は町長決裁まで進めてくださったようで,真摯に受け止めて頂いたことを感謝しております。

 さて,進言の結果ですが,受け入れがたいという回答で,一律6%削減が決定されました。町として税収の落ち込みが過去にないほど際だっており,事業効果の判断は短期間では実際上不可能という苦渋の選択が下されたそうです。事業効果を見極めるためには,その指数尺度を選択し,活動や事業毎のデータの累積が必要です。何をどのように判断するか,その方法論が確立されていない限り,実行できるものではありません。
 全体的な背景の他に,来年度は生涯学習センターの建設が始まり,町としては社会教育分野には多大な投資をしようとしているという自負もあったことでしょう。何かをすれば何かを控える,それがゼロシーリングの必然です。大局的な視座に立てば,仕方のない選択です。

 補助というもののあり方が問い直されようとしています。補助体質の改変が時代の流れであり,国による補助が削減され,地方の補助が削減を余儀なくされ,ドミノ倒しのように住民にまで及んできました。これまでのように,補助に頼るやり方は,自助をキーワードとする時代の要請からずれることになります。今後あらゆる補助は,広く浅くという形が採られることでしょう。補助を受ける側の意識改革が必要になります。
 そのような状勢の中で,福祉や教育分野の重要性を勘案すべきであるという価値観を持ち出すことも可能です。心豊かなまちづくりという目標に向けて,デザインを広く啓発することが,社会教育委員には求められています。

《さらに後で・・・》
 さらに,日が経ち,首長部局での検討の結果,一団体を除いて,社会教育関係団体の補助は従来通りに戻ることになりました。進言がトップまで届いた成果であったかどうかは不明ですが,それはどうでもいいことで,まずは一段落です。今後の課題に向けての具体的な取り組みが必至になってきました。