*****《ある町の社会教育委員の活動》*****

【第12章 研修会発表レジメの書き方について】


 他の都道府県ではどうなのか分かりませんが,福岡県では社会教育委員の研修について,ある区別が存在しています。郡の規模で行われる研修と県下数ブロックに分けて開催されている研修は「○○地区(○○ブロック)社会教育委員研修会」とタイトル化されています。一方,県下全域及び九州,全国規模の研修は「○○県(九州,全国)社会教育研究大会」と銘打たれています。
 身近な研修は「社会教育委員」の研修会,広域の研修は「社会教育」の研究大会となっています。その区分けに明確な意図があったのかどうかについて見聞きしたことはありませんが,研修を企画運営する立場になってみると,意識せざるを得ません。
 身近な研修について考えると,社会教育委員の研修という趣旨を生かさなければなりません。そのことは同時に,広域の研究大会が社会教育委員の「委員としての研修」になっていないと感じてしまう理由として妙に納得させられます。委員としての研修を求める方が間違っているということです。したがって,最も身近な研修会は,やはり委員としての研修を意図して計画されるべきでしょう。自分たちのためにする研修会として,明確な意思を持つべきです。

 委員研修という性格を明確にするためには,発表をその方向に誘導しなければなりません。なぜなら,社会教育活動の実践発表という呪縛は,委員の立場を拭い去ってしまう力を持っているからです。いわゆる発表という機会に馴染んでいない委員が多い中では,どうしても実践した具体を発表する段階に留まってしまいます。体系的な発表の構成を整えることに習熟していないと考えておくべきです。すなわち,趣旨を説明して発表の転換を促すだけでは,具体から飛び出すことは期待できません。このことは能力のことを言っているのではなくて,ただ単に慣れていないということにすぎません。
 そこで,何をどのように説明すればいいのかというマニュアルを提示する必要があります。具体的な実践の中で,このことを説明して下さいという問いかけを想定し,それに答えていくことで自ずから委員としての研修になるような筋道が現れるような資料を作る必要があると考え,発表レジメの書き方という資料を作成してみました。どこまで功を奏するか分かりませんが,試してみることにしました。以下に,その資料を掲載しておきます。

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発表レジメの体裁

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【第1分科会】
「社会教育関係団体による青少年健全育成活動」
〜地域二日制をどのように生かすか〜

発表者 ○○町社会教育委員     □□ □□
司会者 ○○町社会教育委員     □□ □□
記録者 ○○町社会教育委員     □□ □□
助言者 ○○教育事務所社会教育主事 □□ □□
責任者 ○○地区連絡協議会副会長  □□ □□

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1.○○町の概要
  ・人口の年齢構成や特色
  ・自治区数や校区数(内容に関わるデータ等)
  ・関係組織図
   (発表市町の規模や当該団体組織等の全体の中での位置づけを明らかにする)



2.○○事業の背景と経緯
  ・現状の分析を誰がいつどこでどのように行ったか?
  ・目標や対応方策の検討を誰がいつどこでどのように行ったか?
  ・事業の歴史や経過
   (事業が実現するまでに出会った課題とその対処法を具体例により説明)



3.○○事業の実際
  ・事業の趣旨は?(何をねらいとして)
  ・どのような準備を誰が行ったか?
  ・事業に関わるメンバーの構成は?
  ・参加者の特徴や参加方法は?
  ・計画の留意点は?
  ・予算はどうしたか?
  ・マンパワーは?
  ・事業の活動事例(写真など)



4.○○事業の効果(やってよかったことを)
  ・計画趣旨の実現度や評価点数は?
  ・参加者の反応は?(感想文など)
  ・事業者の実感は?
  ・関係する周辺の反応や協力は?



5.事業の反省と課題
  ・計画外の出来事は?(やってみて気がついたこと)
  ・参加者からの要望や改善の声は?
  ・組織としての限界は?
  ・予算やスタッフ負担などの適正は?
  ・活動の継続や発展のために必要な課題は?
  ・今後取り組むことは?




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《レジメについて》
  ・上記の項目は,例としてあげているので,実際に照らして再構築してください。
   (細目番号などを付けて,適当な構成をお願いします)
  ・基本的には,起承転結の流れを発表してくださると聞きやすくなります。
  ・活動は人が行うものなので,誰が何をしたかという点を明確に発表してください。
  ・できるだけ,社会教育委員だからできたというところを教えてください。
  ・発表の概要が読むだけで分かるように箇条書きなどの説明記述をお願いします。
   (もちろん,詳細は当日配布の別紙で提供することも可能です)
  ・レジメは,A4版2ページを原則とします。(印刷枚数の低減のため)
   必要なら,A4版の補足資料を当日会場で配布できますので,あらかじめ,
   100部を印刷し,前日までに会場担当市町まで搬入して下さい。


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《コメント》
 レジメを書き上げる上で指針として利用してもらうことを期待して,発表者に提示しました。とかく発表が自分流というか,やったことを主観的に話すことに集中しがちであることに対して,客観的な報告にするために軌道修正してほしいと願っています。
 ポイントは,「誰が」ということ,つまり発表者である社会教育委員が,社会教育委員としての発表をしてくれさえすればいいのです。社会教育委員は実践者ではあり得ません。実践できるのは各種の団体役員だからです。その立場の違いを明確に意識化していないから,たまたま社会教育委員であったに過ぎないという発表に終始することになります。
 事例発表において最も大事な部分は,起承転結のうちで起と結です。計画を立てて評価をする,そのプロセスこそがまさに社会教育委員の使命だからです。「なぜこの実践事例を選んだのか」,「その事例は生涯学習によるまちづくりという目的に照らしてどのような意味を持つのか」,「事例から何を学んだのか」,「どのような方策が今後有効だと判断できたか」,といった大きな枠組みで捉えた考察が不可欠です。
 繰り返しておきますが,社会教育委員は,「教育」のための委員であり,社会活動家とは別次元の役割を期待されているということです。


【事後感想】
 謀は成らず。一朝一夕には改変できるものではないと思ってはいましたが,見事に空振りでした。委員はそれなりの方ですから,細々と学生相手に指導するという手法は控えました。それなりの方ですから逆に自らの業績発表という意志が働き,事例の意味分析を報告する研修はあっさりと拭い去られました。事前に話の展開についてアドバイスをし,理解を頂いたものと思っていましたが,本番ではやはり事例報告に終始してしまいました。
 会長という役職にいる間は,少しずつごり押しを続けていこうと思っています。一度はやってみせることも必要かなとも考えます。研修のあり方という研修,機会があれば実施してみようと密かに画策しています。実現できたときは,また報告いたします。

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