*****《ある町の社会教育委員のメモ》*****

【研修会開催に向けて?】

 研修会を主催するに当たっては,全体構想を描いておくことが必要となります。材料はありきたりの全体会と分科会ですが,味付けをどうするかということによって,研修全体のイメージが決まります。
 先ず,明確にしておくべきことがあります。研修会であるということです。正確に言えば,社会教育研究大会と社会教育委員研修会の違いです。県レベル以上のものは研究大会ですが,県内地区ブロックでは委員研修会です。どちらも形として同じく全体会と分科会から構成されています。形が同じだからといって,同じ内容であるはずもありません。その違いは何か,考えなければなりません。もちろん,社会教育の研究と委員の研修とでは,違うのが当たり前ですが,どうも意識的に区別をしてこなかったきらいがあります。
 研究大会において,「分科会の実践発表が委員の実践とはいえないものであり,研修にならない」という声が少なくありません。実践発表に委員の姿が見えてこないのです。社会教育の研究大会であることを素直に受け止めれば,委員の姿があるという必要はありません。社会教育活動の研究だからです。それでも,参加者は大部分が社会教育委員です。委員はどのような意図を持って参加することが期待されているのでしょう。
 一方で,委員研修会においても,そこで提示される活動には委員の関わりが見えてきません。委員の役割の範疇外にある社会教育の研修になっていることが多いようです。委員の役割が必ずしも表立つことではないので,目に見えるような具体的実践活動事例になりにくいことがあります。事例発表という要請を受けると,どうしても行事を持ち出さざるを得ない,見栄えがしないという事情が推察されます。いきおい,委員の活動は消えていきます。行事は委員が実践していることではないからです。委員であっても,それは団体等の他の実践的役職を担っているから可能となっています。その背景を斟酌した上で,事例というイメージを改める必要があります。どういう行事をしたかではなく,どういう考察と企画をしたかということが大事なのです。
 現状の反省をしなければなりません。単純に考えることにします。なぜなら,深い考察も必要ではあるのですが,新人も含めて経験の少ない委員に対して説明する状況を想定しているからです。深い考察は聞く方に予備知識を要求することを忘れてはなりません。
 研究大会とは,一言で言えば,「何をなすべきか」という課題を研究する場です。それに対して,研修会は,「なにができるか」という具体的な企画力を研修する場です。

 委員の権限という面で,役割を整理しておきましょう。まちづくりというイベントを想定すると,全体構想の責任者であるプロデューサーが不可欠です。社会教育委員がまちづくりの関わっているとはいえ,プロデューサーにはなれません。必須の力である予算を持つ権限が付与されていないからです。企画者止まりです。社会教育法における計画の立案役割が明記されていることが,そのことを示しています。
 企画者として取り組むべき課題は,総合的なバランスです。社会教育における個々の実践者は部分領域を見ざるを得ません。全体を見ることが委員に期待されている役割となります。だからこそ,計画作成が第1の責務となっているのです。

 今年度の研修会のテーマを「地域・学校・家庭の連携を図る社会教育委員の関わり方」としました。「地域・学校・家庭の連携」という課題の選択については,あらためてその理由を述べる必要はないでしょう。研修会のテーマとして,「図る」というキーワードが最もメインです。図るとは,実行できるように計画するという意味です。テーマを読み解くと,連携のために実行可能な計画を委員はどうすれば立案できるか? という課題となります。企画の研修を目指します。

 もう一つの意図があります。通常のテーマでは,地域・学校・家庭といえば「教育力」という言葉が主語の位置に座ります。例えば,地域の教育力の向上のための連携となります。ここでは,「教育力」をあえて削除しました。この三領域を主語とし,この三領域の連携を目指すことを課題としました。社会教育委員がまちづくりに資するとすれば,教育力に限らないはずです。福祉面や生活面など多様な面で,連携は不可欠だと考えています。
 さらにいえば,家庭の教育力という言葉が,家庭を変質させているのではという懸念を持つからです。家庭を教育の場と思わせているのではと危惧するからです。家庭での日常的な生活があれば,ことさら教育といわなくてもいいのです。生活体験それ自体が,教育力を内包していると考えるべきです。教育力というから,親は教育者擬きの立場を意識するようになります。親は教育する者であってはいけないのです。教育という言葉の解釈の機微が通用しなくなっている現実があります。

 これまでも,地域・学校・家庭の連携は進められてきました。学社連携や学社融合という動きがあり,最近は学校支援という動きが始まっています。主役は学校のようです。教育力という言葉によって社会教育活動が引きずられています。社会教育が目指そうとしている連携という概念は,相互依存という同じ目的に向かって連絡・協力し合うことと解されべきです。
 例えば,「学校は地域に向けて何をしているか?」,「家庭は地域に何をしているか?」という疑問を持ってみることが必要です。地域は子どもたちを守る,では家庭は地域に何をしようとしているのか? そのような双方向的な関わり合いを検証することによって,三領域の連携の実状が明らかになります。状況の把握をすれば,何が課題であるか浮き上がってきますし,何ができるかという考察に取り組むことができます。

 以上のような基盤構想を持って研修会を進めたいと思っています。その意図をどれほど共通理解してもらえるか分かりませんが,少しでも研修の進行ベクトルが変わってくれたらいいなと期待しています。

(2009年07月16日)