【第5章 結 論】
親と地域とのつながりを居住年数という指標を使って見てきました。最後にまとめとして,子育てや家庭教育上において,親にとって地域とはどのような意味を持っているのか考えておきます。
1.地域の意味
地域では子育てのためにさまざまな活動が実施されています。それは子どもの育つ環境を整える活動や育ちを支える活動です。その活動の目的は人と人との結びつきです。活動を通して温かな人間関係を持ち合おうというわけです。地域と言ったときに何が連想されるでしょうか。行事であったり,組織活動といった催し,公民館であったり,公園といった建築物でしょうか。地域とは人のつながりです。お隣さんの顔,近所の子どもの顔,地域の人たちといった人間の集まりが地域です。同じ地域に住むという共通性が親密さのきっかけになります。お互いに助け合うことで共同性が生まれ,学びあうことで継続性が保たれて伝統という柱が立てられます。そのすべてが人としての信用さえも与えてくれます。人は社会的に生きているのです。子どもは地域の中で社会的に育っていくのです。
2.地域の親とのつながり
親の地域での関わり方を居住年数での変化として見つめると,特徴がありました。3年目の壁は近隣とのつながりができる条件,5年目の壁は地域との信頼関係を持つための条件,10年目の壁は地域の主体になるための条件でした。居住年数は人の結びつきの度合いを測る因子だと見なすことができ,地域の人との間柄が成立するにはそれなりのつきあいの期間が必要になるということが明らかになりました。もちろん子どもという縁結びがその期間を短縮してくれることは見てきたとおりです。
子育ての自信が5年を過ぎて回復してきたように,地域との人間的なつながりは子どもにとって必要であるばかりではなく,親の支えになっています。家庭の教育力の土台であると言えます。土台は隠れているので気付きませんが,子育てという家屋が歪みなく機能できるように下支えをしてくれているのです。地域は日常の子育てについて特別なことをしてくれるわけではありません。しかし,子どもたちを親たちが見守っているという温かなつながりは,子どもだけでなく親にも安心感を与えてくれます。その安心感が子育てへの意欲を引き出してくれます。
地域の教育力の正体が見えてきました。恐いおじさんがいる地域というイメージが普通です。もちろんそれも大切な教育力には違いありません。しかし,それよりももっと深いところで家庭教育の核心を担っているのです。親が地域の人間関係を完成することによって,そこから親としての力を得ているのです。親に勇気や知恵を与えてくれる場所,それが地域です。
親が地域から何もしてもらっていないと離れたとき,土台を失った親は砂の上の家のようにゆがんで崩れていきます。子育ての自信を失い子どもは放置され,その結果が今の青少年の実状になって表出してきたものと考えることができます。地域を取り戻すのは,親自身の務めです。それが親であることの証になります。失ってから気付くのは凡庸ですが,気付けば取り返せばいいのです。反省しないことが最も避けるべきことです。 《完》