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  誰かの為に

 

人のために、いきることということは、よいことだ。

 俺は、いつだって、一生懸命に生きてきた。

 人が呼ぶ声に答え、出てゆく。

 その度に、自分の身をすりけずり、汚し、間違いや汚点を消して行く。

 そんな自分が大好きだった。

 でも、もう、疲れた。

 心も身体も、ぼろぼろだ。

 休みたい。

 そう思った途端天の声が・・・


「このけしごむ、すてちゃお。」

 これで俺も解放される。やっと自由になれるんだ!

「えー、だって、まだ使えるじゃん。もったいないよ。」

 余計な事言うな。さあ、早く捨ててくれ。もう疲れた。

毎日毎日、身を削って、疲れがたまってるんだ。

 さあ!早く。何をぐずぐずしてるんだ。

 立ちあがって、ゴミ箱に落とす。

 それだけでいいんだ。

「でも、もうこれいらないもん」

「なんで?」

「だってさ、みんないろんな匂いのするやつとか、色々な形のやつ使ってるだろ?」

「うん。」

「だから、俺もそういうの欲しいんだ。もうこれ、丸くなっちゃっているし。」

 そうだ。新しいのを買うんだ。俺をお払い箱にしてくれ!

「まだ使えるよ!」

 いいから早く捨ててくれ。もう・・・もう同じ事の繰り返しは嫌なんだ!

いっそのこと、ゴミ箱にでも捨てられて、忘れられるほうがいい。

俺はそっちのほうが良いんだ。

 お願いだ。早く捨ててくれ。お願いだから!!

「いらないんだったら、俺にくれ。」

「だって、君自分の消しゴムもってるじゃん。」

「もったいないだろ。最後まで大切に使ってやろうよ。」

「そう?」

「うん。」

 やめろ・・・やめてくれ!頼むからそいつに俺を渡すんじゃない。

 もう嫌なんだ!何もかも。もうこのまま捨てられたいんだ。もう、もうこれ以上、俺の体を削らないでくれ!

「ん〜。じゃ、あげる。」

「ありがとう!」

 おい、頼むから、頼むからやめてくれ。やめろ!これ以上俺の体を削らないでくれ!

「よく消えるよく消える。」

 そんな、机に書かれた落書きなんかどうでもいい。

もう消さないでくれよ。このまま削られたら、死んでしまう!

 頼むからやめてくれ!やめてくれ・・・やめて・・・やめてぇ・・・