気がつくと、リョウは自分のベットにいた。
「ようやく、めがさめたか?調子はどうだ?」
心配気に、ディーが覗き込んで来る。
「うん・・・なんとか・・・。ディー、あのこ・・・・・は・・・?」
横を向いたせいで、額にのせてあった布が、ズルリと落ちた。
すっかり温まったそれを、ディーは拾うと、傍らの洗面器の水で冷やして、またのせる。
「大丈夫だ。病院の精神科に入院することにはなったが、リハビリを受ければ、また外に出れるそうだ」
「そっか。よかった・・・」
「ったく、よ。人の心配よりは、自分の心配しやがれ。熱出してんだぞ。」
ホッとしているリョーの唇に、ディーのそれ、が、ゆっくりと近づいてくる。
唇に、熱い、息が、かかる。
「気がついた〜??」
おまえら、絶対のぞいてたろ?
そうとしか言えないタイミングでビッキーとキャルが突入してきた。
あわてて、ディーが身を起こす。
「あー!!ディー、てめー、リョウに手を出そうとしたなーーー!!!!」
ビッキーの跳び蹴りが、ディーの背中に炸裂。
「こっのーーー!!クソガキャー!!」
「へっへーんだ!!のろま〜〜!!こっこまでおいで〜〜だ。」
おしーりぺんぺんっ!!
さっきまでのシリアスはどこへやら、途端にコメディが始まる。
それを、笑みを浮かべて眺めているリョウの脇に、キャルが座る。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。ありがとうね。」
「熱が下がったら、みんなでドライブにでもいきましょうね。」
「そうだね。」
毎度恒例とはいえ、複雑な心境のリョウの前で、ディーとビッキーはやっぱり、漫才を続けている。
「いつか、ぶっころす!!」
「できるもんなら、やってみろ〜〜」
あっかんべー
「あんだとー!!」
ディーのコブシの第二関節が、ビッキーのこめかみをグリグリと押す。
はっきりいって、これはいたい。
「いてててて!」
頭を押さえて、ビッキーが座りこむ。
「ふふふ。正義は常にかつのだ!」
「さってと。リョウの目もさめたようだし、私はそろそろ、おいとまするわ」
リョウの頬に1つKISSをすると、キャルが立ち上がる。
「じゃーね。ディー、リョウ、ばいばーい!」
「あ、キャル、もう暗いし、ディーとビッキーに送ってもらいなよ」
リョウの言葉に、子供たちの顔に一瞬、クエスチョンマークが浮かぶ。
熱を出していることを差し引いても、普段は、こんなことは言わない。
いつもならば、キャルと、彼女を送るビッキー2人をジョークの1つでもつけて、送り出すだけだ。
そして、ディーは何も言わずに車のキーを取り出す。
いつもならば、リョウと離れるのがいやだと、子供のようにだだをこねているはずなのだ。
二人とも、妙に心配をしている。
何かが変だ。
その思いを、良い方へと考えることにした。
何故ならば、キャルの家は、ここから近いとは言えない距離だし、治安もあまりいいとはいえない。
「おら。ガキども、いくぞ」
ようやく、ポケットからキーを取りだし、2人を促す。
「んーじぉ、いっておくけど、ちゃんと寝ていろよ。」
「いってくっかんねー」
「まったねー」
「ディー、よろしく。」
後ろ向きに、ヒラヒラと手を振る3人を、リョウは笑顔で送った。
パタン。
ドアの閉まる音。
途端に、静かになる部屋。
『ちゃんと寝ていろよ。』
ディーの言葉通り、眠ろうと、再び目を閉じた。
今日に限って、みんなの愛情をヒシヒシと感じる。
やっぱり、熱を出して、心細くなっているからなんだろうな。
「愛されているなぁ」
つぶやいた。
『何で、何で、どいつも、こいつも、僕の邪魔をするんだ。僕はただ、子供が好きなだけなのに・・・』
バーンズの言葉がよみがえる。
そんなもの、理解したくはない。
今現在は、そう断言したくなる。
「愛されてるなぁ」
もう1度、口に出してみる。
ゾクリとしたものを感じてしまった。
砂を噛んでいるようだ。
ビッキーとキャルに『愛』には、彼らの家庭環境もあって、家族の『愛』。
純粋なものしか感じられない。
だが・・・・。
ディーの『愛』は・・・・。
もう1つの『愛』
自分の肩を抱きしめて、ふるえた。
恐い。
人を『愛』するということは、こんなにも恐ろしいものになり得るのだろうか?
もちろん、ディーにはあんな狂気的な『愛』はない。
だが・・・・。
それでも・・・・・。