アニメでGO!

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「アニメを観よう!」
今日も今日とて、俺はDVDのケース片手にセフィロスのマンションにいた。
セフィロスは迷惑そうだ。
クラウドは首を傾げている。
「……これ、マンガだよね」
「そ、マンガアニメ。観た事ある?」
「えーと、確か、後ろ足で走るネズミと猫が追いかけっこしてるマンガなら、観た事ある」
「『タムとジュリー』か、あれは名作だ」
俺はうんうんと頷く。さすが、どんな田舎でもあれは有名だ。


「……お前」
セフィロスが嫌みな声で俺を呼ぶ。キヒヒ、あんた、このアニメ観たくないんだよね。そうだよね、でもそうは問屋が下ろさない。
絶対にクラウドにみせてやるんだもんね。 俺はクラウドにパッケージをじっくりと見せた。
バックは宇宙、月みたいなクレーターだらけの地面。そこに宇宙服を着たスキンヘッドの髭の爺さんと、くるくる赤毛の女の子。真ん中にはこのアニメの主役の眼鏡を掛けた少年の絵。
「クラウド、これ、よく見てみ?」
素直なクラウドは、俺が指さすキャラをじっと見る。3人組の絵の遙か後方、崖みたいな場所にたつ1人の男。
横向きで顔は長い黒髪に隠れて見えず、着ているのは白いロングコート。手には長い刀。これ、色は違うけど誰かに似てないか? クラウドは二、三度瞬きをすると、隣でいやーな顔してるセフィロスを凝視する。
ふっふっふ、気が付いたようだね、クラウド君。


「これさー、『宇宙の英雄、セフィーロ』ってキャラなんだ」
「それって、あの……?」
クラウドはまたセフィロスを見る。苦虫かみつぶしたような顔で、セフィロスは視線を泳がせてる。
「そ、これはセフィロスがモデルになってるんだ。で、声もセフィロスがやってる」
「……え?」
クラウドはおっきな声を出して、じーーーっとセフィロスを見つめてる。
「サーが、このアニメに出てるの?」
「……一言だけだ…」
やっとセフィロスが答えた。やっぱりクラウドに知られるのは嫌だったか、あんた、本当にこれは命令だからしぶしぶって感じだもんな。
セフィロスが「後で覚えてろよ」と言わんばかりの目つきで睨むが、こ、怖くなんか無いぞ。クラウドがここにいる間は俺は確実に無事だ、……いないと怖いけど。


「ザックス、早く見よ。俺、サーがどんな風に出てくるのか見たい!」
うんうん、一服の清涼剤だね、君の笑顔は。
さあさあ、一緒に見よう。セフィロスは早々と本を取りだして見ない振り決め込んでるけど、クラウドが座椅子代わりに膝の間に座り込んでるから、その場から動けないんだよね。
嫌かも知れないけど、一緒に見ようぜ、セフィロス。
「恥ずかしい」という感情を覚える、良いチャンスかも知れねーからね。




アニメは神羅スタジオ製作、人気SF作家が原作。この作家ってのがもともとセフィロスファンで、セフィロスをキャラのモデルに使いたいって打診したのが、このアニメシリーズが作られるようになったきっかけ。
企業イメージアップのために全面協力って事で、セフィロスも嫌々ながら声の特別出演させられちゃって、おかげでシリーズ大人気。今年はついに実写版が作られてるとかって話だけど、俺が持ってるのは記念すべきシリーズ第一作だ。


やっぱり、シリーズ物は最初っから見なくちゃな、ちなみに今のところDVDは4作目まで発売になってる。あと3本、そのうち持ってきてやるから、一緒に観ようなって言ったら、クラウドはニッコリ、セフィロスはブッスリ。いや、おもしれーーって。


そんな顔するなよ、セフィロス。内容は、宇宙の英雄セフィーロに憧れた少年が、両親が宇宙事故でなくなったのをきっかけに、セフィーロが旅した惑星を順に訪ねてその度に成長していくという、文部省推薦な少年成長話だ。
ほらほら、あんたに憧れて神羅に来たクラウドが観るのにふさわしい内容だろ……?っておあいそうまじりに言ってみたけど、やっぱりセフィロスはぶっすりのまま。あんた、クラウドからは本に隠れて見えないからって、そんな遠慮無く俺を睨むなよ。

さて、いつものように、灯りをけして、飲み物と食い物を用意して、さあ、映画でゴー!
スピード感溢れる宇宙を突き進むオープニング演出に、クラウドは早速喜んでるぞ。
そんでもって、その宇宙をバックに説明セリフが流れていく。


『宇宙世紀15636年、人類は宇宙へ進出していた―――――うんたらかんたら』


クラウド、それは別に読まなくても良いぞ。



アニメは、冒頭から爆発する宇宙コロニー、脱出用シャトルに向かって突進する人々、その中で美人のお母さんが必死に息子をシャトルに乗り込ませる様子が描かれる。


『さあ、お行き』「嫌だ、母さんは!』『母さんは大丈夫、次のシャトルに乗るから、さあ、行きなさい!』


少年を乗せたシャトルが脱出すると同時に、コロニーは大爆発を起こす。後続の船もシャトルもカプセルも全部飲み込んで。『かあさーーん!』と絶叫する少年の声に、クラウドは顔をゆがめた。クラウド、これはこの手の話によくあるネタなんだ、頼むから、マジで切なそうな顔するな……。
ほらほら、大丈夫。同じような境遇の女の子も隣で泣いてる。そのまた隣ではパッケージにのってたスキンヘッドのじーさんが2人纏めて慰めてる。


『良いか、坊主達……宇宙ってのは生易しいものじゃねぇ…危険と隣り合わせだ…宇宙に出るってのはそういう事だ……こんな事は覚悟してなきゃ行けねー事なんだぜ……』


元宇宙軍パイロットだったという爺さんが含蓄のある慰め方してる。でも、これだけで納得して立ち直るってのもどうかと思うが、1時間45分で悲劇にあって立ち直って旅立って成長しなきゃいけないんだから、その辺はまあ仕方ないねって事で。


母星の孤児院に入れられることになった少年と少女は、同じ境遇って事で意気投合。星につくまでの間じーさんに聞かされた、じーさんのかつての盟友『宇宙の英雄』の冒険話にすっかり心奪われ、『……俺も、宇宙に行きたい……』ときたもんだ。
その後、孤児院に入れられる直前に脱走、爺さん個人所有の宇宙船に乗り込み、星の政府の人間の制止を振り切り宇宙大冒険に出発開始。
ここで最初の宇宙船チェイスっての?『停まれ』『停まらない』の間一髪の脱出劇。かくして一行は、宇宙の果てまでも冒険している英雄の足跡を追う旅に出る。
子供が冒険に出るって最初にわくわくする見せ場だよ。案の定、クラウドもわくわくしてるぜ、抱きクッション代わりのセフィロスの右腕、両手で掴んでぶんぶん振り回してる。
旦那は無言。あんた辛抱強くなったよな、いや、本当に。



さてさて、主役の少年少女がやってきたのは、なんだか得体の知れない市場惑星。巨大ウォールマーケットみたいなところだな……こういう所って、賑やかなところ以外は荒れ果てて、まともな人間ほど割を食ってるってのが定番なんだが、ここもその通り。
宇宙の英雄に憧れる正義感の強い少年は、現地の親子にすっかり感情移入し、マーケットを牛耳るボスを倒そうとする勢力と共闘する。
『セフィーロは困ってる人々をけして見捨てたりはしなかった』
じーさんの美しい思い出話が入る。この辺はモデルとちょっと違うな。セフィロスはそんな理想主義者じゃないもんね。大人げないし、根性悪いし、依怙贔屓は露骨だし……。


それはさておき………この手の話のお約束だけど、俺はちょっとばかし複雑な気もするね。
いや、あれ、そのさ……なんかこういう世界を支配するボスってさ……どれもこれも神羅をイメージしてるように見えてさ……このボスを倒そうなんていってる勢力の言い分なんて、レジスタンスと称するテロリストと変わんねーし……。
実際にこういう連中と日々丁々発止とやり合ってる俺らとしては、なんか納得いかない展開でもあるけどね。実際、こういう「自分たちが正義」と叫ぶ連中ってさ、「安定した社会を維持していくシステムの構築」なんて頭にないわけで。
何たって自分たちは正義なわけだから、自分たちと同じ価値観が当たり前だと考えるふしがあって、自分たちに従わないのはそれイコール悪に分類するんだよな。


ボスを倒して万歳したあとは、結局、自分らが倒したボスと同じ事をすると思う訳よ。
誰かがトップに座って、部下を使って、自分の思う社会を作ろうとして――で、いつかそれに不満を持つ連中が同じ事をすると。


まあ、こういう子供向け冒険物を観て社会がどうのこうのなんて言ってる方がおかしいやね。無理を通してこその冒険活劇なわけだしさ。
ごくごくふつーの少年がいきなり最新鋭銃器を使いこなしていっぱしの戦士ぶるのも、フィクションならではの爽快さだろ。
合間にスキンヘッドじーちゃんの年季を感じさせるセリフと、赤毛のヒロイン少女の健気で元気で前向きなシーンが入る。
うんうん、こういう女の子って好きだね、可愛い。
女の方が男より先に成長するって、ほんとだな。
そして合間に入るセフィーロの格好良いイメージショット。少年の想像力ってとっても素敵。
もちろん現地の少年たちとの友情シーンも入る。これでもかと悲惨な生活を強調されつつ希望を夢見る現地少年。
……うう、こういうお涙頂戴シーンって、けっこう俺も弱いかも。
何たって俺も希望を夢見て故郷から出てきた口だもんな。
クラウドは真剣だ。
マジに真剣に観てる。
そんなに身を乗り出して観るなんて、……これをチョイスしてきた俺のセンスに乾杯だぜ。もう少しで旦那のシーンだからな。



いよいよクライマックスだ。
ヒーロー眼鏡少年は現地少年と赤毛ヒロインと一緒に謎の地下洞窟に落ち、ボスのボディガード代わりのモンスターと対決。
モンスターのでかい尻尾が地下洞窟の壁をぶっ壊し、謎の部屋へと主役一行は入り込む。


そこにあったのは――宇宙英雄セフィーロのマークが描かれた古びたデカイ銃。
多分、宇宙船の銃座添え付けの高出力レーザーガンだよな、多分。
少年はその銃におそるおそる手を伸ばす。
画面は暗転。
遠くにスポットライト。その中で黒い長髪を揺らす英雄が、僅かに頭を巡らし少年の方を向く。この時のカットは英雄の背後からで、ばっちり見えるのは目を大きくしている少年の顔。
これまで常に隠れていた英雄の顔の下半分だけが登場、その口元が動く。


『――ここで諦めるのか』


その声が聞こえた瞬間――クラウドが爆笑した。



その馬鹿笑いっぷりに、さすがの俺も仰天したよ。見るとセフィロスもちょっと吃驚顔で、自分の胸に顔を押し当てて、抱っこちゃんみたいにびったり抱きついて笑ってるクラウドを見ている。
「おい、何がそんなに可笑しいんだよ」
「……だって……」
クラウドは笑いすぎて質問しても答えられない。
旦那の名誉のために言っておくが、別に果てしなく棒読みだったとか、緊張で声が裏返ってるとか、そんなんじゃねーぞ。
むしろ、むっつりご機嫌斜めの時のトーンを抑えた声で、渋さ通常の5割り増しってくらいの良い声だ。うっとり腰を抜かす奴がいても、爆笑する奴がいるなんてとうてい思えないぞ、これ……。


「……何が可笑しい?」
胸に顔をこすりつけるようにして笑ってるクラウドに、セフィロスが優しい声で聞く。
俺、あんたのそういう声って聞いたことないかも。クラウド限定だよな、その声。
クラウドはようやく顔を上げて、それでも笑いが抑えられないようでくすくす笑ってる。
うん、クラウドがここまで馬鹿笑いするのもあんまり無いよな。セフィロスの前限定かも知れない。

「だって……これ、ハイデッカー総括とかからの電話とったときの声だから…ものすごく面倒くさそうで嫌そうで、なんか、どういう顔でしゃべったのか想像したら……」
クラウドはまた顔を伏せて笑うことに専念し始めた。セフィロスは苦笑している。
「…お前のツボはよく分からないな」
そう言ってる顔は嬉しそうだよ。
結局その後の展開、クラウドは笑いすぎて観る暇がなかったようだ。あんなに真剣だったのは、セフィロスの声がいつ出てくるかって待ってたせいかよ、おい。


まあいいや、アニメの方はセフィーロマークの銃の一発で形勢逆転。おいおい、誰が一体こんな古い武器の整備充填をしてたんだという突っ込みはなし。きっとサイコガンタイプ設定なんだろ、精神力で威力が出るって奴。そんな便利な武器、俺もほしーよ。
レーザーはモンスター貫いて洞窟の天井貫いて、空からはスキンヘッドじーさん操る戦闘宇宙船がやってきて、無事にボスを倒してめでたしめでたし。


『君ならきっと、セフィーロのような英雄になれるよ』


そう言う現地少年としっかり抱き合って別れを惜しみ、主役一行はまた次の冒険へと旅立っていった。
このシリーズ、一度だけ映画館で観たこと有るけど、ラストシーンはガキどもが興奮してうるさかったよな……みんな、『セフィーロ』イコール『セフィロス』で見てるから、第二の英雄になれるかも知れない少年に自己投影しちゃって、映画館出るときは勇ましいちびっ子英雄もどきの大軍が、セフィーロ印の長刀レプリカを振り回してたっけ。
実はこっそり俺も映画館限定発売のセフィーロ印長刀レプリカ買っちまったのは、こいつらには内緒だ。


俺がそうやって懐かしい思い出に浸ってる間も、みんなの憧れ英雄様は腕の中で笑ってるちっこい子供あやすのに忙しい。
そういや、あんた、今度の実写版にも声の出演するんだよな。
後ろ姿だけでいいから、実際に出てくれって依頼は断ったんだよな。
そう言ったら、セフィロスは「……余計なことを…」と舌打ちしてる。いや、だってさ。
せっかくクラウドがこんなに喜んでるんだから、最新ニュースくらい教えてやろうよ。
クラウドはニコニコしながらセフィロスを見てる。


「……今年も、サー、映画に出てる?」
「一言だけな」
ため息を付きながらも、セフィロスは大人しく答えている。クラウドはちょっとだけ目を輝かせた。
「クラウド君、ひょっとして、公開になったら観に行きたいとか思ってる?」
「……行けたら、行きたいかなとか……映画館の場所、あとで教えて」
こいつ、ほんと、欲がないよな。自分から強請るなんて事、ほとんどない。たまにあっても、せいぜい、一緒にビデオを見ようとか、そんな程度。どこかに出かけようとか、もちろん、どこかに連れて行ってなんて要求したこと無いんだろうな。
映画に連れてけくらい言ったって、バチあたんないのに。
セフィロスはどことなく困り顔をしたあと、観念したのかふっと笑った。
「……試写会の招待状が来ている。3人まで有効だ。一緒にいくか?」
その申し出に、クラウドは一瞬ぱっと顔を輝かせたが、すぐに思案下になった。


「俺が一緒に行っていいの?変に勘ぐられたりしない?」
「あ、はーいはいはい!じゃー、俺も一緒に行ってあげます!俺の最年少部下だっていったら、別に疑われないでしょ?」 
間髪入れずに手を上げたら、2人揃って変な顔して見てやがる。
悪かったな、実は俺、このシリーズのファンなんだよ!原作本だって全巻揃えてるんだ。


「まあ、いい。では、ザックスも連れて行く。それなら、お前も来るか?」
旦那、あっさり人をダシに使う気ね。でもクラウドは控えめに頷いた。そか、やっぱり旦那と一緒に映画観るためにお出かけなんて、デートみたいな事してみたいよな。
試写会終わったら、俺はさっさと別行動してやるから、あとはゆっくり食事でも公園デートでも野外Hでも好きなだけすればいいよ、俺は邪魔しないからさ……。
なんて言うか、俺の方が娘を嫁に出す気分でしんみりしてると、クラウドはちょっと困ったように呟いた。


「でも、俺、試写会の途中でサーのセリフ聞いてまた笑ったらどうしよう……」


ああ、それ、あり得るかも。セリフの録音、もう終わってるんだよな。きっとまた仏頂面で、めんどくさそーに、それでいて腰が抜けるような渋い低音でかっこよくセリフ言ってるんだよな。
クラウド君が大受けに受けた、ハイデッカーの電話を嫌々受けるときの声で。


「試写会前に聞き慣れていたらどうだ?」
「…え?」


セフィロスがちょっと意地悪な顔で言った。何か企んでるな、サー、顔つきがエロくなってるぞ。クラウドはきょとんとしてるだけだ。こういうとこ見ると、やっぱりお子さまだよな。首傾げてじっとセフィロスの顔見てる。


「今度の映画でオレが言うセリフを、今から言ってやる。聞いて、慣れろ」
「……う、うん」
お、さすがに警戒態勢に入ったぞ。クラウド、ちょっと腰が引け気味だ。いやほらだって、抱えるセフィロスの手つきがいやらしー感じだし。スクリーンにはDVDメニュー画面。プロジェクターから吐き出される明かりだけの暗い部屋の中、妙にピンクな雰囲気が漂ってくる。おい、旦那。子供相手にちょっとばかし変態チックだぞ。
そんな俺の心の声なんて無視して、旦那はクラウドの耳元に口を寄せる。


『……オレの後を追ってこい』


うわ!全力直球色気全開腰に直撃するような声!


「オレの後を追ってこい……だ。聞き慣れたか?」
「……ま、まだ……」
「じゃあ、もう一度だ……。オレの後を追ってこい……」
「う、うん……」
「……いい子だ、クラウド…オレの後を追ってこい…いいな」
「うん……」


あんた……その顔、その身体でその声、反則だ。その気になったら、男も女も誘惑しまくり貢ぎ品だけで食ってけるよ。
でも、その声を向けるのは、腕の中にいる子供限定なんだよな。って言うか、子供相手に全力で誘惑すんなよ。あーあ、……クラウド、なんかもう目が泳いでるぞ。
ほんのりバラ色の頬に、潤んだ瞳。こっちもヤバイくらい色っぽい表情になってる、なんだよ、さっきまでお子さま全開モードだったくせに、あっと言う間にお色気夜の顔に変身だ。
……ここで見てる俺がアホみたいだぜ……。


って、これは旦那も同じ意見だったみたいで、とろけるような顔つきで完全に身体預けちゃったクラウド片手に、横目で俺に「とっとと帰れ」と言っている。
ハイハイ、俺だってね、そんなに馬鹿じゃありません。
ここで、ぼーっと黙って人のラブシーン見てるほど、暇でもないんです。


俺は黙ってプロジェクターからDVDを抜き取って、電源を切った。
たった一つだった光源が消えて、部屋は暗くなって、セフィロスはまたクラウドの耳に何か囁いてる。聞こうと思えば聞けるかも知れないけど、ここで聞き耳立てるのは野暮ってもんでしょ。
静かに玄関に向かうと、チュッって濡れた音が後ろから聞こえる。
おっと急げよ、俺。旦那、あんたやっぱり「恥ずかしい」なんて感覚無いんだな、俺が出ていくまでの少しの時間くらい堪えろよ、節操無しめ。



俺は廊下に出ると、持ってたDVDディスクをケースに入れて、エレベーターのボタンを押した。やれやれ、新婚デレデレカップルの家にお邪魔するのは、神経使うぜ。ほんのちょっぴりだけどな。
俺はエレベーターに乗り込みながらPHSを取りだして短縮ダイヤルを押した。呼び出す先は当然、彼女のとこ。
あーんな色っぽいシーン見ちゃって、独り寝なんて出来るわけないっしょ、まったく。
前言撤回だよ、旦那。
試写会の帰りには特別豪勢なディナーを奢って貰うよ。
あんな美味しいシチュエーションに繋がるきっかけをやったんだから当然だよな、それくらいはさ。





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