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オリオン日記(2002夏・西表島)その5

展望台から眺めるマリウドの滝

8/15(木)

今日は親子3人で行動開始。
浦内川を遡り、マリウドの滝、カンピレーの滝を目指す。
浦内川は、西表島どころか、沖縄県で一番長い川なのだ。

星立ての集落を過ぎて程なく、浦内川にかかる大きな橋が現れる。
橋の手前の小道を左折した所に、ガケにへばりつくような船着場があった。
仲間川の観光船よりも一回り小さな船で、ちょっとボロっちい。
こちらは頻繁に船が出ていて、待たされる事も無く乗船し、さっそく川を遡る。
両岸は山が迫った断崖なので、仲間川に比べればマングローブの森の規模は小さい。
でも、狭い分だけ、
「さぁ、ジャングルの奥地に突き進むぞぉ!」
といった感じで、仲間川とはちょっと違った探検気分なのだ。

沖縄で一番長い川、浦内川

軍艦岩という地点で下船。
ここからは山道を歩かねばならない。
「はいっ。2時間後に船が迎えに来ますからねぇ」
滝の展望台までは徒歩20分、そこからマリウドまで10分、さらにカンピレーまでは10分。
コースタイムはたいした事が無いのだけれど・・・・
一抹の不安があった。
そう。オコチャマをオンブしているのだ。

思い起こせば、最後の登山は2年前の剣岳。
その時に比べ、確実に肥えてしまったワタクシ。
オコチャマの体重と、わが身の増加分を加算すると、なんと20キロ近くにもなる。
こりは、剣登山の時に背負った荷物よりも重い。
ダラけて体力も衰えている事だろう。
当初は、
「まぁ、どうせ往復道だし、キツかったら途中で引き返して船を待つか」
などと気弱に構えていたのだけれど、そうは言ってられない事態となった。
なぜなら、同じ船にジョン・レノン風の白人家族が乗っていて、同じようにコドモをオンブしているのだ。
しかもレノン一家はカンピレーよりも先を目指すらしく、国有林立入り許可証まで用意している。
当然、コドモ以外の装備も重い。
くぬやろぉ。
ココは八重山、風景はアマゾン化してるけれど、一応はニポンなのじゃぁ。
ニポン人として負けてたまるか。
親同士が散らす火花、といっても、コッチが一方的に意識してるだけなのだけれど、双方のオコチャマ達は何やらテレパシーでも交信しているがごとく友好的に笑みを交し合い、ときおりフシギな言語で会話も交わす。
もちろん、どちらの親にも理解出来ない言語である。

マリウドの滝 遠景

心配するほどの事も無く、皇族でも来たのではないかと思われるような整備された道で、登る傾斜も高尾山クラス。
オンブひものセッティングに戸惑っての最後尾スタートだったのに、順調にニィチャンネェチャン連れを抜き去ったりしながら邁進。
展望台で休むシトビトをイッキにゴボウ抜きし、しかしそれでもレノン一家には追いつかない。
ヤルなぁ。
ほどなく、滝見物を終えて次を目指すレノン一家と入れ替わる様に、マリウドの滝に到着。
鬱蒼とした原生林の中に唐突に現れた岩盤が、なぜだかパキンと段差がついちゃったような滝。
落差20mほどの小さな滝ではあるけれど、なんとも涼しげでキモチが良い。
滝の上側の岩には、落とし穴のように直径50cmくらいの円形の穴がいくつもあいている。
この穴の正体は不明だそうな。

マリウドの滝 到着

もう一息歩いて、今度はカンピレーの滝に到着。
やっぱり丁度、レノン一家が出発するところだった。
こちらの滝は、小さな段差が繰り返されている急流と言った感じで、滝と言うのにはちょっと大げさかもしれない。
しかし、カンピレーというのは『神々の座』という意味らしく、確かに神々しい風情はある。
まぁ、そういう目で見ればだけれど。
いずれにしても、ここでノンビリと過ごせば気持ちよさそうな場所であり、更に先に伸びている道の道標なんかも魅力的に誘いをかけて来るけれど、2時間という制限付だから仕方が無い。
帰りの船の時間が気になる。
ちなみにこの道は、更に浦内川を遡り、山を越えて仲間川の方まで続いている登山道。
果たしてレノン一家はどこまで行くツモリなのだろうか。
オコチャマ連れではなかなかハードな感じである。

滝っぽくない、カンピレーの滝

どちらの滝の名前も、何やらアイヌ語っぽい雰囲気である。
もともとニポンに居た縄文人は、後から来た弥生人に押しやられてハジッコに逃げていったとの事で、アイヌ人と琉球人には共通する点も多いそうな。
そんな関係もあるのかしらんなどと思いつつ、来た道を引き返し始めると・・
おうっ!!
なぜか前方から、レノン一家が登場だぁ!!
「あのぉ、先に行く道はどこですねん?」
流暢なニポンゴで語りかけてくる。
「えっ?カンピレーの先に行くんでしょ?ちゃんと道標もあったのに」
「何だか判らないうちに、いつのまにか戻っちゃったんでんがな」
おいおいレノンよ、キミタチはフツーの観光客がめったに入らない所まで行くのだろう。
そんな事でいいのか?
彼らの消息が新聞ネタにならない事を祈るのみ。


軍艦岩の船着場に戻ると、帰りの船はすでに到着していた。
船着場の手前の、ちょっとした休憩場所に陣取った係員が叫ぶ。
「はぁいっ。オクサマ、こちらに弁当の用意が出来ております。どうぞどうぞ。ホラッ、ダンナとガキは早く船に乗った乗った!とっとと帰りやがれ」
何とも差別的な対応!!
と言っても、こりは理不尽ではない。
朱蘭さまだけ、午後のカヌーツアーを申し込んであったのだ。

イチオウ、滝だそうです

再び、にせバックパッカー父子となり、船で強制送還。
しかし何だか様子がおかしい。
行きの船と帰りの船で、乗客がメンバーチェンジしているのだ。
朱蘭さまのようにカヌーを申し込んだ連中やレノン一家が乗ってないのは当然として、見覚えの無い乗船客がワンサカと乗っている。
これはなぜ?
推測するに、「2時間後に、乗ってきた船で帰る」と言うのは原則であって、次々と来る船に、自分の都合で勝手に乗り換えてしまうことが暗黙の了解となっているようなのだ。
それならば慌てて2時間で戻ってくる必要は無かった事になるが、
「○○分間隔で運行。最終は○○時」
とキッチリ決まってる訳でもなさそうなので、あんまりノンビリとしすぎて、道無きジャングルに取り残されてしまうのも極めて困る。


大汗かいたし、一旦いるもて荘に戻って着替えとオコチャマにエサでも食わせる作戦とする。
ところが・・・
帰りのクルマですでに、またまた爆睡体制に入ってしまったオコチャマ。
いるもて荘に着いて部屋に転がしても起きやしない。
起こすのも可哀想だし、そのまま放置して様子をみるものの・・・・
いつになっても起きないのだ。
オトーチャンのメシはどうしてくれる!!

ついに2時を過ぎる。
もう容赦ならん。
叩き起こして強制メシを食わせたものの、前回のパターンだと、開いてる食堂など期待が出来ない。
こうなったら・・・・
結局、いざるように、またまたまたポケットハウスに。
数少ないメニューを、完全制覇してしまいそう。
「あら、オクサマは今日もダイビング?」
「いえいえ、今日はカヌーですぅ」
「あらららららら、タイヘンですねぇ」
目の前には鳩間島、そして砂の島「バラス」。
そんなアンバイで、またまたまたココでオリオン漬けに陥るのであった。


一方、カヌーに乗った朱蘭さま。
四万十川などでカヌー経験のある朱蘭さまは、カヌー自体も楽しみにしていたのだけれど、いわゆる本格的なカヤックというよりも初心者用のチンケなヤツだったらしい。
操作的には、そこいらの公園の手漕ぎボートに近い感覚だろうか。
まあ、経歴不詳の観光客を相手にしてる訳だから、初めての人でもそれなりに乗りこなせないと商売にならないのだろう。

ジャングルをカヌーで進み・・・

それはそれとして、川下りは非常に面白かったそうだ。
途中でマングローブの森の中に踏み入ったり、観光船では入り込めない所にある滝に打たれてみたり、川での水泳タイムもあったり・・・・
この水泳タイムってのは、どうでもいい時間つぶしではない。
とっても重要な、そして貴重なアトラクションであり、エンターテイメントなのだ。
何が貴重かと言えば・・・・・
エンターテイメント、ニポン語で言えば催し物・・・
そう。
モヨオシちゃっても、途中にトイレなんか無い。
そのバヤイに、人知れずにスッキリとする解決方法が、水泳タイムに他ならない。
ベタなコジツケ、すまんですたい。


ちなみにコレは、ダイビングの場合でも同じだそうな。
以前、朱蘭さまが新しい水着を欲した際に
「セパレートのヤツが良い」
などと言ったのだ。
ワタクシは『セパレート = ビキニ』なる貧困で短絡的な発想しか持ち合わせず、
「えっ?そんなセクシー系が欲しいですとぉ!!!」
などとブッたまげたりしたのだった。
そしたら違うんだそうで、ダイビング対策なんだとか。

一口にダイビング船と言っても千差万別で、高級クルーザー風からチンケな漁船モドキまでイロイロであって、船にトイレが付いてるとは限らないのだそうだ。
それではトイレ無しの船の場合、ダイブポイントまでの道中にエンターテイメントの処理を行うには・・・・
船のヘリに掴まって海にドップリとつかり、そのまま下だけ脱いで・・・
ってな作戦らしい。
そのバヤイ、ワンピースの水着ではどういう事になるかは、想像するにムツカシくない。
だからこそ、セパレートが良いのであった。

ちなみに、ドライスーツを着たダイバーは、うっかりトイレ無し船に乗っちゃうと、もっとヒサンな運命だそうな。
なにしろ水着を着ていないのだから。
下世話な話ですまんですたい。

とにかくとにかく、西表島のハナシなのだ。

浴びて 泳いで

歩いて・・・ カ・カヌーは?

オトォチャンだっていつまでもヘベレケにばかりなっている訳にはいかない。
頃合いを見計らって、朱蘭さまをクルマで回収に向かうのだ。
オコチャマを積み込んで浦内川の船乗り場まで来たものの、ちょっと時間が早すぎたようだ。
橋の上から川の上流を眺めれば、遥か遠くに、いくつかのグループに分かれて隊列を組んで水面上をスイスイとすべるように進んでいるカヌーの一団が見える。
それでは時間つぶしにドライブがてら走り始めてみれば・・・・
あっというまに終点の白浜に着いちまった。
せっかく再び白浜に来たのだから、帰りは集落の直前のトンネルを通らずに山越えの旧道を走ってみる事にする。
山越えと言ってもそんなに険しい箇所ではなく、ほんの2〜3キロでトンネルの反対側に合流してしまう。
しかしこの旧道は、なんとホタルの生息地だとの事。
もちろん夜ではないのでホタルが居たとしても光っちゃいない。
ここで夜まで待ってる訳にもいかないので、それはチャンスがあった時の楽しみと言う事で。

だから、カヌーは?

再び浦内川の船乗り場に向かう途中・・・・
ふいにあたりが暗くなり始め、あっというまにスコールのような雨である。
こりは朱蘭さまがタイヘンだ。
カヌーには水着で乗ってるとは言え、ゲキ雨に打たれたって良いと言う事ではあるまい。
コーナーを一つ二つ曲がると、雨が止んだと言うよりも最初から降っていない状態だったりする。
そして更に進むと再びスコール。
タラタラ走っててもイッキに終点に着いちゃうような距離だと言うのに、そんな状態が繰り返されているのだ。
果たして浦内川のあたりは如何に。
正解は「カヌーを降りると同時に降られた」だった。
南国で、海があって、島があって、そこに山があって、そして風が吹けば、どっかで必ず雨が降るってのを、身をもって体験したのだ。

上原のスーパーで、アイスを買う。
トッピングは『ゴーヤー』『紅芋』『サトウキビ』。
シヤワセシヤワセ。
海を見ると、遥か沖合いを積乱雲が流れていくのが見える。
モコモコとトグロを巻くように白びかりしながら、まるで真っ黒なロングスカートでも履いた様な裾をひき、徐々に鳩間島ににじり寄っていく。
やがて鳩間島は暗黒の空間に隠されて姿が見えなくなる。
ああ、鳩間島が流されちゃったらどうしよう・・・
などとマジで考える訳も無く、もちろん、程なくクッキリと姿を現す鳩間島。
心なしか、雨に洗われて先ほどよりキレイになった気がする。
これも、そんな訳は無い。

ただ一つ言える事は、鳩間島では何人の観光客がズブ濡れになっただろうか。
そんな無意味な事を考えつつ・・・・
アイスのついでに、コッソリと、どなんも買っちゃったりするのであった。

鳩間島を覆い隠す雨雲
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