ifの物語
〜 もしベジータとブルマが子だくさんだったら!? 〜
第2章
「あら、ユーリはどこ?」 ブルマが気づいて言った。ユーリというのは4歳になる男の子の双子の片割れで、もう片方はマーピーという。どちらもベジータに似ているのはもちろんのことだが、母親のブルマでもときに見分けがつかなくなるくらい、二人は顔立ちも体つきも互いに瓜二つだった。 「マーピー、ユーリはどこへ行ったの?」 ブルマが訊いたが、マーピーは黙って突っ立ったままで要領を得ない。どうやらユーリは迷子になったようだ。 悟空たちの方を向くと、ブルマは手分けしてユーリを探してほしいと頼んだ。みんなに異存はないが、このものすごい人ごみの中を探すのは並大抵ではない。おまけに手のかかる幼児が何十人もいるのだ。 ブルマとトランクス、ブラが迷子のユーリを捜しに行ったあと、チチと悟天と悟飯一家、亀仙人とクリリン一家、ピッコロとデンデ、ヤムチャとウーロンとプーアルは、それぞれ残った子どもたちを引き受けざるを得ないハメになってしまった。 「く、くそ。こんなことになるなら来るんじゃなかったぜ」 ピッコロは死ぬほど後悔していた。彼の両腕には生後3ヶ月の四つ子のうち二人が抱かれている。口がきけるようなガキだと何を言われるかわかったもんじゃないので、子どもを割り当てられる際に 「き、きさまら、そういう目でオレを見るんじゃない」 赤ん坊は無言だ。もちろん、生後3ヶ月ではしゃべることなど望むべくもないが、無言の赤ん坊に左右からじっと射るような視線――つまり、『ガンを飛ばす』という状況なのだが――を浴びせ続けられるというのもかなりの苦痛だった。 ピッコロは救いを求めるようにデンデの方を見た。が、デンデは既に背中と前に背負いひもで残りの二人をくくりつけられサンドイッチマン状態で、さらに1歳児を乗せたベビーカーを押している。これ以上押し付けるのは酷というものだろう。 ピッコロは蛇に魅入られた蛙のように、ダラダラと脂汗を流して赤ん坊とにらめっこをしながら、その場に突っ立っているより他になかった。 クリリンは18号とマーロンと共に、2歳から5歳までの7人の幼児たちを押し付けられていた。 「マ、ママ、あたし……もう……ダメ」 マーロンはそれだけ言うと、バッタリとその場に倒れた。さっきから並大抵ではないくらいチョコマカと動き回る子どもたちを追い掛け回して、疲労困憊してしまったのだ。亀仙人はぎっくり腰になって既にリタイアしていた。 「絶対にカプセルコーポからベビーシッター料をもらうからね。わかってるね、クリリン」 娘を助け起こして水を飲ませ、四方八方へ走っていこうとするチビたちを両手両足で羽交い絞めにしながら、18号はぜいぜいとあえいで言った。 「ど、どこへ行っちまったんだよう」 クリリンはそれどころじゃなかった。預かった子どものうち、2歳のチビがさっきから行方不明になってしまったのだ。この子まで迷子にしてしまったら、ベジータにどんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。 「こらあぁぁーーっ! ドロボー!!」 イヤな予感がして、クリリンは声のした方へ飛んでいった。案の定、ベジータそっくりのチビがこちらへ向かって猛ダッシュしてきた。両手に山のようにハンバーガーを抱え、口にはチキンを3本も頬張っている。 すんでのところでチビの腕をつかまえたクリリンは、追いかけてきたハンバーガー屋の店主に平謝りしながらチビの抱えているハンバーガーを取り返そうとした。が、チビはあっという間にすべてのハンバーガーを丸のみしてしまった。 「あっ、こらっ。勝手にどっか行くなったら」 クリリンが勘定を払っている間に、チビは食後のデザートを求めてアイスクリームショップへ突進していった。 「なんでオレがこんな目に……」 クリリンは空になった財布を握り締め、泣きながら後を追って行った。 一方、悟空とベジータはのんびり歩いていた。幼児が迷子になったとはいっても、サイヤ人の子どもである。危害を加えられることはないだろうし――むしろ誰かに危害を加えないかの方が心配だ――そのうち戻ってくるだろうというのが彼らの統一見解だった。ただ、一応は探す格好をしておかないと、互いの妻がうるさい。 「ところでカカロット」ぶらぶらと露店を眺めて歩き回りながら、ベジータが口を開いた。「つかぬことを訊くが……その……おまえのところは……週何回だ?」 「へ? 修行ならオラ毎日してっぞ」 「誰が修行のことを訊いた。週に何回、チチと、その、なんだ。――――ええーい、察しの悪い野郎だな!」 「なに怒ってんだ、ベジータ」 ベジータは真っ赤になって怒鳴った。「もういい。きさまに訊こうと思ったオレがバカだった。週に何回チチと寝てるかなんて――――」 言いかけてベジータは更に真っ赤になって両手で口を押さえた。 「なぁーんだそんなことかあ。オラんとこは毎日だぞ」 あっけらかんと悟空が言うと、通行人に「ジロジロ見てるんじゃねえ!」と凄んでいたベジータは慌てて向き直った。 「な、なにっ。毎日だと?」 悟空はにこにこしてうなずいた。「ああ、毎日だ」 「ふ、ふふふふふ、ふ」 握りこぶしを固め、上目遣いに悟空を見上げたベジータは、勝ち誇ったように言った。 「それじゃオレのところと同じじゃないか。やっぱりうちだけが特殊というわけじゃなかったんだ。あいつらさんざん珍しいものを見るような目で見やがって」 「気にしてねえようで結構気にしてたんだなあ、ベジータ」 「やかましい! ――――これでやっとわかったぜ。やはり確率の問題なんだ」 悟空の言う、「チチと寝ている」というのが単に一緒の布団で寝ているだけ――――というベタなオチだとは、この時ベジータはもちろん気づいていなかった。 |