(つづき)



 「…困ったなぁ…」

ダイは、溜息とともに一人ごちる。
さっきは、2人のプレッシャーに負けて、協力するといったものの、
自分は隠し事が出来ない性分だとは、本人も自覚している。

特に、ポップに対しては。

もちろん、勘のいいレオナにも気付かれることも多いが、
ポップは、ダイの顔を一目見るなり

 『お前、何隠してんだ? 正直に言え』

なんて、先手を切られて度肝を抜かされることもある。
そのくせ自分は何知らぬ顔で、嘘を隠すのが上手いのだから、ずるいと思う。


 「そんなに見たいなら、直接ポップに聞けばいいのに…」


そう言ってみるものの、レオナがそうしない理由も何となくわかる。
何せ、アノ意地っ張りで、照れ屋な彼のことだ、レオナに種を突っ返しておいて、
実はコッソリ育ててました〜なんて素直にバラす訳が無い。
何のことだ?、とはぐらかして、とぼけながらも証拠隠滅を図るかもしれない。
そうなってしまっては、大魔道士様のお花を拝めることは無い。

こっそり、花に水をやりに行くだろうポップの後をつけて、現場を押さえるしかないのだ。


そうこうイロイロ考えていたダイだが、不意に気付いた。
自分が嫌がっているのは、ポップを欺くことであって、彼の花が見たくない訳では無い。

いや、むしろ見たい。
ポップが、自らの魔法力を注いで、育て上げた花。
そう、愛しい自分の魔法使いが、慈しんで咲かせた花だ、どんな花なんだろう?


いつしか、ダイの思考はウットリと、愛しい魔法使い自身に移り、自然と顔が緩む。
周りに人がいたら、気難しく考えていたのに、急にニヤつくダイを見て、さぞかし気味悪かっただろう。
幸い、誰もいなかったが。


無理矢理協力させられたと思われたダイは、充分やる気になっていた。
 
 『ダイ君も、見たいわよね?』

そう言ったレオナの策略の結果なのかどうかは、誰も知る由も無い。








チャンスは割と早くやって来た。

ここのところ、パプニカは晴天続きで、今日も朝から強い日差しが照りついていた。
外にいると、汗ばむような陽気で、王宮の花々もグッタリ、としおれかけている。
レオナも朝から、自分の自慢の花壇にせっせと水をやっている。


 「大変大変〜こんなに暑くっちゃ、マメにお水あげないと枯れちゃうわ〜」

と、隣に誰いないのに、わざと大きな独り言を言いながら。
因みに、花壇のある中庭に面した執務室に、ポップがいることは、充分承知の上だ。



しばらくして、ポップが執務室を出た、という侍女の知らせを受けて、レオナは急いでダイを呼んだ。
ダイは急いで駆けつけてくる。

 「いよいよよ、ダイ君! 準備はいい?」

 「うん、レオナはいいの?」

 「いいのよ、たまには息抜きも必要よ」

それは、公務をエスケープするということだが、ダイは賢明にも、ツッコミを入れるようなことはしなかった。


ポップは執務室を出て、王宮内のはずれにあてがわれた自室に向かっていた。
ダイとレオナがそこに着く直前に、彼の部屋から光が空に向けて飛び立つのが見えた。

 「ルーラだ、きっとポップだよ」

 「ダイ君!急いで後を追って!」

レオナはダイにしがみつき、ダイも彼女をしっかり抱えると、トベルーラを唱え、空に向かう。








 もともと、ルーラの速度にトベルーラで追いつくのは、難しい。
ましては、相手は世界一といわれる魔法使い。
いくらダイとはいえ、遠距離となると見失ってしまう。
かといって、あまり全速力で追いかけて、気付かれてもいけないし、レオナはそんな速度には耐えられないだろう。
ダイは慎重に飛びながら、遥か遠くに見えるポップのルーラの軌跡を、目を凝らして追った。


フッとルーラの軌跡が見えなくなった。
着地したのか、それとも見失ったか、さっきまで見えていた軌跡の辺りに向かう。


 「この辺りだと思うんだけど・・・」

 「見失っちゃった?」

 「うん…そうかもしれない やっぱりポップのルーラに追いつくのは無理だったかな…」

 「ううん 仕方ないわ… でもせっかくだから、この辺り少し見ておきたいわ」


レオナに言われて、ダイは改めて周りを見渡した。
パプニカの西の辺り、大戦時に最も被害を受けた場所の一つだ。
街は復興してきていると言うものの、まだまだ地方には戦いの傷跡が色濃く残っている。
この辺りも、かつては緑豊かな土地だったのであろうが、今は剥き出しの土や岩だらけの光景が広がっている。

眼下に広がる荒れた土地を眺めるレオナは、寂しげな目でそっと呟く。

 「まだまだ やらなくちゃいけないことが、いっぱいあるわね」

 「そうだね」

 「遊んでる暇なんて無いわね…」

 「でも、レオナ、 やっぱり息抜きは必要だと思うよ」


にっこり、とダイは笑いかけながら、続ける。


 「レオナは今でも充分頑張ってるよ、急がなくても、皆でゆっくり直せばいいよ」

俺も手伝うからさ、と付け加えて、照れくさそうに笑う。

 「ありがとう、ダイ君…」

レオナもつられて笑う。
この少年が笑っていてくれるなら、何があっても大丈夫、と思える自分もおかしかった。




(つづく)


 意外と長くなったので、分けます。 レオナは、とっても話の進行に役立ってくれる、いいキャラです(笑)