(つづき)

レオナがビックリするような花はどんなだろう。
ダイも見ようと、レオナの傍らに腰を落とし、彼女の視線の先を見る。
しかし、見たものは期待から大きく外れていた。


 「……?  えっ…? コレなの? ひょっとして」

 「ほら、ちゃんと咲いてるだろ?」


ちょっとした驚きに硬直している2人の後ろに立って、ポップは何事も無く言う。
2人は、ポップが育てた花から目線が外せない。


 「でもコレって、花なの?」

 「失礼な! ちゃんと花びらもあるだろーが、 …見えにくいけど」

 「い、色が無い…」

 「悪かったな!色気無くて!! もともと花っちゅーモンは、葉っぱが変化したものなんだ! だからいいんだよ!」


そう、ポップの花には、色が無かった。
スッと伸びた細い茎の先には、ガクがあるが、一見するとその先には、何もないように見える。
しかし、よく目を凝らすと、その先には薄い、透明な花弁が連なり、その花弁の中には細かな葉脈が廻っている。
レオナはそっと、手で触れるみる。
手で触れてみると、その花びらは目で見るよりも繊細なことがわかる。触れる指もキレイに透けて見える。
これでは、遠目にみては花があるなんでわかりっこない。完全に葉の緑に同化してしまっている。


 「ねぇ、ポップ君、 どうして植物の成長を早める研究なんてしてたの?」


レオナは花を見つめながら、後ろのポップに尋ねる。その声は、とても穏やかだ。
そのレオナの言葉は、ポップの予想に反したものだった。


  『コレが花?! 花じゃなくて葉っぱでしょ?! 花とは認めないわ!』


 などと、非難轟々、幕仕立てられると思っていたからだ。

ポップ自身、自分の育てた花に正直、最初驚いた。 お世辞にも、美しい花とは思えなかった。
まあ、もともと自分は美意識が高いわけでもないし、研究のために育てた花だから仕方ないか、と
本人はあまり気にしないようにしていた。
が、やっぱり、人に自慢げに見せるような花じゃない、とは思っていたようだった。

意外な反応で、不意に話を戻され、ポップも少し慌てる。


 「ど、どうしてって、これからは、魔法ーつったって戦闘につかうわけじゃねぇから、他に使い道は無いかなっと考えてさ、
  たまたまこういう花があるって知って、コレならできるかもーって… 何か悪かったか?」

 「ううん…、ココにある木、全部 君一人で植えたの?」

 「そー…だよ  いやその、勝手なことしたのは悪りィと…」

 「そんなことを言ってるんじゃないの、どうして相談してくれなかったの?」

 「そうだよ ポップ! どうして手伝わせてくれなかったのさ」


周りを見渡せば、そんなに広範囲ではないにしろ、一人でこれだけの数の木を植えるのは、
容易ではなかったことぐらい、すぐに見て取れた。
おそらく、仕事の合間を縫って、何日もかかった重労働だったはずだ。
一言相談してくれれば、手伝いもするし、ポップの仕事を減らしたり出来たのだ。
こういう研究なら、正式に依頼して専念してもらってもいいぐらいなのに。


  …あちゃ―、やっぱりこうきたかー、だから黙ってたんだけどなぁ…


ポップ自身も、事情話せばこうなることは解かっていた。
誰しも傷ついた地上を、早く緑溢れた地に戻したいというのは同じだった。
しかしレオナは、パプニカの国を復興させる執務に追われ、自分もその補佐をしている、その仕事量も決して少なくは無い。
人材不足の現状では、自分一人が欠けても、レオナ達の負担は大きなものになるだろう。
だから、いい結果が得られるまで、ポップは黙っていることにした。
コレは、あくまでも個人的な興味範囲の研究、と割り切って。

無論、時が来れば大いに手伝ってもらう気でいた。


バツの悪い顔で、黙ったまま困り果てているポップに、レオナは質問を変えた。


 「ポップ君の育てた花って、ずっとこうだったの?」

 「へ?」

 「初めて育てた時から、こういう花だったの?」

 「あ、ああ…」

 「そう、やっぱりね」


レオナは立ち上がり、ポップに向き合うとにっこりと笑って言った。


 「この花、とっても綺麗ね」

 「…………それは、嫌味なのか? 姫さん…」 

 「あら、せっかく人が誉めてるのに失礼ね! 本気で言ってるのに」
 
 「咲いてるかどうかもわかんねー花だぜ?どこがキレーなんだよ…」

 「綺麗じゃない、緑が」

 「そりゃ、葉っぱだろ…」


ポップは元来、照れ屋で、プライドが高い割に自分を卑下するところがある。
自分が綺麗だと思っていない花を、誉められても、どうしても本心とは思えなかった。
2人のやりとりを聞いていたダイも、満面の笑みで花を誉める。


 「俺もこの花、好きだな〜 ポップみたいで」

 「ダイ… お前まで嫌味かよ…」

 「嫌味じゃないよ、ね? レオナ?」

 「そうよ  全く素直じゃないわね」


ポップが、だって…と言いかけたところに、すかさずダイが続ける。


 「この花って、育てた人の魔法力に影響するんだろ?」

 「………?  ああ…」


今さらコイツは何を言うんだろう、とポップは首をかしげる。


 「つまりはさ、コレは、ポップそのものなんだろ?」

 「…悪かったな、地味で」

 「そんなんじゃないよっ、 花が透明なのは、ポップの心が綺麗だからだよ」 

 「へ?」


ポップは間の抜けた声を上げた。
心が綺麗、なんて言われるとは、露とも考えたこともない。
欲深い、程ではないにしろ、充分俗っぽい人間だ。自分で言うのもなんだが、聖人君子とは程遠い。
心が綺麗、なんて言うのは、そう、ユニコーンが寄ってくるような、清らかな乙女のことを指すのでは?
ポップは大きく溜息を吐く。


 「無理して誉めてくれなくてもいいぜ、ダイ」

 「なんでもう、そんなふうに取るのかな、ポップはー」

 「ダメよ、ダイ君。 このひねくれ者には何言っても無駄ね! あー誉めて損しちゃった」

 「レ、レオナ…」

 「姫さん…いくら俺でも傷つくぜ…?」


ポップは口の端を上げて笑っているものの、半目になった眼は、ちっとも笑っていない。
何もそこまで言わなくても…とダイも思ったが、それ以上は言えない。
そんなことはお構いなしに、レオナはビシッと、ポップを指差し言い放つ。
 

 「ポップ君!」

 「何だよ」

 「明日、マァム達もココに連れてくるから、皆に誉めてもらいなさいvvv」

 「ゲッ! や、やめてくれよ!」

 「もともとマァムも見たがってたし〜」

 「マァムまでグルだったのか?!」

 「あ〜 明日が楽しみね〜っ そういう訳で、ダイ君、帰りましょ♪」

 「えっ あっ … ああ…   …うん」


勝手に区切りをつけると、レオナはダイに捕まり、退散を促した。
否応なしに、ダイは頷くしかない。 
ポップも負けじと食い下がる。


 「ちょっと 待てよ! 勝手に…」

 「明日までに花を処分したりしたら、タダじゃおかないわよ? いいわね」

 「うっ!」


ルーラで飛び立つ寸前、さすが、釘を刺しておくことも忘れない。
レオナは極上の微笑を残し、大空に消えていった。
残された大魔道士は、うなだれるしかできなかった。




綺麗って思ったのは本当。
ダイ君が言ったとおり、あの花は育てた人そのもの。
透明な花を咲かせたポップ君、その心には、欲が無い。

俗欲が無いって訳じゃなくて、少なくとも花を育てた心は、無欲だった。
綺麗に咲かせようとか、自慢してやろうとか、そんなことは考えていなかった。
ただ純粋に、皆のために…。

だから あのような花が咲いたのだ。
自分の為でなく、人のため… 何も望まない無色の花。


ダイに捕まり、ルーラで帰る途中、そんなことを考えながら
レオナはそっと、誰にも聞こえないように呟いた。


 「どんな大輪の艶やかな花も、緑萌える美しさにはかなわないわ…」




それから後、パプニカに少しずつながらも、緑が戻っていったことは言うまでも無い。



(おわり)

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や、やっと終わった… こんなに長くなる予定ではなかったのに…。


もともと、話のネタは「皆を花に例えたら、どれだろう?」と思いたったことから広がりました。
どうせなら、魂の色にちなんで…と思って

レオナ=白のカサブランカ
マァム=赤のペチュニア
ヒュンケル=あやめ      という具合に考えていたのですが、

肝心のダイがどうも、『野に咲く無名の花』 というイメージがあって、だったら
ポップは 『その周りに広がる緑』としか思えなくって、そしたら『花』じゃない!! 

…などどいう経緯で、こんな話が出来上がりました。
全然ダイポプじゃないですね… レオナ出張ってるし…(汗)
でも、この話は一応、『ダイとポップはもうデキている』という前提のもとの話です(笑)