百番目の男/J.カーリイ
The Hundredth Man/J.Kerley
2004年発表 三角和代訳 文春文庫 カ10-1(文藝春秋)
露骨にコールフィールドに疑惑が向けられているせいもあって(ジェレミーが驚くほどあっさりと指摘しているところも見逃せないでしょう)、真犯人が別の人間だということは十分に予測できますし、消去法でいけばかなり限定されてしまうので、フーダニットとしては物足りないものになっているのは否めません。しかし、ホワイダニットとしては非常に強烈な作品に仕上がっています。
冒頭に描かれた、コールフィールドを爆弾で狙った事件の動機もなかなかのものですが、ジェロルド・ネルソン、ピーター・デシャン、そしてアール・バーロウ巡査部長という犠牲者が選抜された理由は相当にぶっ飛んでいます。
それにもまして、死体に記された奇怪な文章の常軌を逸した真相がやはり特筆ものです。“アヴァは顔を近づけてジェロルド・ネルソンの死体にフェラチオを始めた”
(375頁)という唐突な文章には唖然とさせられるより他ありませんし、文章の記された位置など細部まで工夫されているのにも圧倒されます。常人ではまず思い浮かぶことさえないと思われる、これ以上ないほど奇天烈な発想に脱帽です。