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第二の銃声/A.バークリー

The Second Shot/A.Berkeley

1930年発表 西崎 憲訳 世界探偵小説全集2(国書刊行会)

 「よくもまあ、ぬけぬけと……」というのが正直な感想です。確かに手記の冒頭には“私はいつか犯罪者自身の視点から描いたそのような探偵小説を書こうと心に決めていた。(中略)そしていま私は、いささか恐ろしい経緯によってではあるが、その理論を実行する機会を得た”(22頁)と書かれていますし、捜査の最中にも何度も自白しようとしているのですが……見事にしてやられました。

 この作品で使われている“視点人物(記述者)=犯人”のトリックは非常によくできています。特に、殺人劇という趣向が巧みに利用されているところがポイントでしょう。ピンカートンは堂々と目撃者の前でエリックを撃っているわけで、“視点人物=犯人”トリックにありがちな、犯行場面だけがぼかした書き方のために浮き上がってしまうという弱点を免れています。もちろん、空包と実包のすり替えなど、まったく書かれていない作業もあるわけですが、“その背中に狙いをつけて、撃った。きわめて説得力のある動きでエリックは膝から崩れ落ち、地面に倒れた。(中略)エリックは今、見事に死んでいた(99〜100頁)という記述などはお見事です。実際のところ、ピンカートンの手記は警察に見せるためのものという設定なのですから、例えば“エリックは私と一緒に邸まで歩くのがいやで、私たちが先に行くのを待つつもりなのだろう、私はみんなにそう言った”(104頁)という箇所などは“……待つつもりなのだろう”で切ってしまっても問題ないように思えますが、このようなところにも気を使ってあります。

 そもそも、ピンカートンに容疑がかかったこと自体、かなり不運です。彼の計画では、“第一の銃声”がエリックの命を奪ったものだと見せかけてアリバイを確保する予定だったのですが、ヒルヤードの気まぐれによって“第二の銃声”が生じてしまい、しかもそちらがエリックを殺した時のものだと思われてしまったのですから。ピンカートンは自分でも正直に“二度目の銃声には驚かされたと素直に認めよう”(107頁)と記しています。

 手記の最後の部分(エピローグの直前)には、ピンカートンの筋の通った考え方がよく表れていると思います。せっかく容疑が晴れたにもかかわらず、シェリンガムがエルザを真犯人と考えていることを知ると、思わず口を滑らせてしまいそうになっています。罪を犯したことには違いありませんが、個人的にはやはり好感の持てる人物といわざるを得ません。

2001.11.17読了

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