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ダレカガナカニイル…/井上夢人

1992年発表 新潮文庫 い43-1(新潮社)

 やはり何といっても、オカルト寄りのミステリーから、終盤突如としてタイムスリップSFになってしまうという展開が見事です。

 頭の中にいる声の主が“吉野桃紅”(葉山美津子)だと考えられる根拠は、彼女が悟郎の頭の中に入り込んだタイミングと、灯油の燃える臭いです。ところが、物語が進むにつれて次々と反証が見つかっていきます。葉山美津子が予想されていたよりも早く死亡していたこと、その際に声の主が記憶している男が存在しなかったこと、そして葉山美津子自身は“ポワ”がうまくできなかった(と思われる)こと。これらの手がかりをしっかりと吟味していれば、あるいは終盤の悲劇は避けられたのかもしれません。

 とはいえ、晶子が“ポワ”することがなければ悟郎の頭の中に声の主が入り込むこともなかったわけで、悲劇を避けようとすればどうしてもパラドックスが生じてしまいます。タイムスリップSFの常套手段ともいえますが、悲劇が不可避であるという、ある種運命的な展開によって、結末の切なさが一際強く印象づけられています。

 余談ですが、括弧(《》)を使った表記により、終盤の主客の逆転を効果的に演出しているところなどは、本当にうまいと思います。

2004.03.06再読了

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