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  4. ロング・ドッグ・バイ

ロング・ドッグ・バイ/霞 流一

2009年発表 理論社ミステリーYA!(理論社)

 まず発端のゴボウの謎については、土を掘り返した意味をごまかすという目的もさることながら、穴の深さゆえにゴボウでなければならなかったというのが秀逸です。一方、“犬密室”はユニークな状況ではあるものの、カーペットが“飛んだ”というトリック自体は(以下伏せ字)霞流一の“十八番”(ここまで)ともいうべきもので、やや面白味を欠いている感がなきにしもあらず。もっとも、平泉が夜中にこっそり銅像を磨いていたことがトリックを成立させているあたりは、うまく考えられていると思います。

 今どきトンネルを掘って盗みに入るというのはさすがに時代錯誤(苦笑)といわざるを得ない部分がありますが、そのトンネルがリフォーム詐欺という現代的な犯罪と結び付けられているのは興味深いところで、労力を考えるとあまり現実的でないにしても、なかなか面白いアイデアといえるのではないでしょうか。

 さらに、トンネルから“レノの幽霊”への発展に至っては、実に見事というより他ありません。“姿なき振動”はともかく、匂いや毛といったレノの痕跡の“復活”――これ自体が犬にとって“実在感”のある(?)幽霊の誕生につながっているのも秀逸ですが――について、合理的で説得力のある解決が用意されているところが非常によくできています。

 いつものような消去法による犯人特定でないのは少々残念ではありますが、消失した“サンマウサギ”を探す際の行動という手がかりはなかなか巧妙です。犯人の行動には読んでいて多少の違和感が残るものの、事件の中心にあるトンネルの存在に思い至っていない限り、その意味するところがわからないのがポイントで、堂々と手がかりを提示しながらうまく真相を隠蔽してあるところがよくできていると思います。

2009.06.21読了