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人格転移の殺人/西澤保彦 |
1996年発表 講談社ノベルス(講談社) |
SFミステリでは一般的に、SF設定がミステリとしての真相に関わってきます。もちろんそれがSFミステリの面白いところなのですが、逆に、例えばトリックの所在がわかりやすくなってしまうなどといった弱点につながる面も否定できません(このあたりはいずれ別稿でまとめたいと思います)。しかし本書では、そこが非常にうまく処理されていると思います。 本書では、人格転移というSF設定による外見と人格の不一致という現象がそのまま人物誤認トリックとして使われるのではなく、一種のアリバイトリックと組み合わされているところが巧妙です。それは、肉体がその場に存在しなくても人格は(別人の体に入って)存在し得るという、これまたSF設定から派生する現象を利用したものではありますが、トリックの所在は人格転移のルールそのものではなくその前提条件、つまり誰が“スライド”サークルに加わっているのか、というところにあるのです。 そして、この、いわば“究極のバールストン先攻法”(何せ犯人の肉体は本当に死んでいるのですから)を成立させるために不可欠な、“綾子が地上に取り残されたまま死んだ”という状況が、まったく無理なく作り上げられているのが見事です(ついでにいえば、“ジャクリーン”らしき人物が階段を上っていったという伏線も秀逸です)。 また、日本語(とフランス語)しか喋れないという設定や、部屋番号の間違いにより“誤って”自分の肉体を殺してもおかしくない状況を作り出すなど、アランの人格をダミーの犯人に仕立て上げる工夫もよくできています。 2004.10.23再読了 |
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