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瞬間移動死体/西澤保彦 | ||||||||||||||||||||||||||||||
1997年発表 講談社ノベルス(講談社) | ||||||||||||||||||||||||||||||
マット・カミングス殺しについての当初の仮説は、以下の通りです。
ここで、和義が〈うぐいす荘〉のクローゼットの中にいた時には死体はなく、また“ステーション”に血痕が残っていたことから、二度目の移動の際の“バランスウェイト”がマットの死体であることは確実だと思われます(*1)。そうなると、仮説をひっくり返すためには、最初の移動の際の“バランスウェイト”がマットの死体ではなかった(生きているマットも含めて)と考えるしかありません。その場合には、以下のようになります。
このように、当初の仮説が誤っていたとすれば自動的に、最初の移動の際の“バランスウェイト”が何であれ、マットは日本で殺害された(しかも犯人はそのまま日本にいる)ということになります。つまりこの事件は、実質的には上の〈表1〉及び〈表2〉に示した二通りの可能性しかないという、二者択一の状況となっているのです。作者は、双子の弟まで登場させてマットがアメリカにいたことを印象づけようとしていますが、たとえマットがアメリカにいたとしても、最初の“バランスウェイト”が生きているマットであれば〈表2〉は成立しますし、他に選択肢が増えるわけでもありません。そして、主要登場人物の中で少なくとも事件の直後から日本にいたのは、明らかに犯行が不可能な和義を除けば玲奈ただ一人。したがって、マットが日本で殺害されたとすれば、玲奈が犯人である可能性が非常に高いといえます。 ロサンジェルスで何者かがマットを殺したのか、あるいは日本で玲奈が殺したのか――このような選択肢の少なさが、解決のカタルシスを大幅に減じているきらいがあります。もちろん、玲奈がアメリカに行っていたというのは意表を突いた真相ですが、事件の大勢には影響ないので物足りなく感じられるのは否めません。
*: 厳密には、和義が日本に戻ってきた後にマット(の死体)が〈うぐいす荘〉のクローゼットに入れられ、“ステーション”の血痕はマット殺害とは関係ない、という可能性も考えられないではないですが、さすがにこれは無視してもかまわないでしょう。
2005.09.12再読了 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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