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切られた首/C.ブランド

Heads You Lose/C.Brand

1941年発表 三戸森 毅訳 ハヤカワ・ミステリ515(早川書房)

 この作品では視点が様々に切り換わっているためにあまりはっきりしませんが、“視点人物=犯人”のバリエーションといってもいいでしょう。自分が罪を犯したことに気づかないという状況を作り上げることで、フェアでありながらも犯人の意外性を狙ったものと思われます。しかしながら、フェアではあるものの、犯人の意外性という点ではさほど成功しているようには感じられません。

 一つの理由としては、真犯人であるペンドックの視点で記述された箇所がさほど多くないことが挙げられるでしょう。アンフェアとのそしりを受けないための配慮なのかもしれませんが、このことによってペンドックが疑惑の対象の範囲内にとどまっているため、意外性が損なわれているように感じられます。“芝生に飛び出して行きながら、思い続けていたんです、あの溝の中にフランがいるにちがいない、首と胴とを斬り離されて……”(73頁)という台詞によって、ペンドックが犯人であることを示す手がかりが明示されているのですから、もう少し大胆なやり方でもよかったのではないかと思います。

 もう一つ重要なのは解決場面の流れです。作中では、コックリル警部がペンドックを犯人と指摘→ヘンリーがレディ・ハートを告発→ペンドックが真相に気づく、という展開になっていますが、ヘンリーの“解決”はレディ・ハートにも犯行が可能だったかもしれないということを示すにすぎず、コックリル警部の告発を打ち消すものではないため、依然としてペンドックの容疑は晴れていないのです。したがって、意外な犯人という印象は薄くなっています。

 “首切りの論理”もあっさりとしている上に、“足跡のない殺人”の謎もダミーとして使われている以上、この“視点人物=犯人”というトリックが中心となるべきものであるはずですから、もう少し効果的に使用するべきだったのではないでしょうか。

2001.11.15読了

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