ネタバレ感想 : 未読の方はお戻りください
  1. 黄金の羊毛亭  > 
  2. 掲載順リスト作家別索引 > 
  3. ミステリ&SF感想vol.210 > 
  4. イン・ザ・ブラッド

イン・ザ・ブラッド/J.カーリイ

In the Blood/J.Kerley

2009年発表 三角和代訳 文春文庫 カ10-5(文藝春秋)

 冒頭の、“アナックの身体には地球の半分の血が流れていて、自分に残りの半分の血が流れている”(9頁~10頁)という記述から、雑種強勢という現象(→「雑種#雑種強勢 - Wikipedia」を参照)を知っていれば、赤ん坊(ノエル)の“秘密”はすぐにわかると思いますし、その知識がなくとも雑種犬“ミスター・ミックスアップ”と純血種との違いについてのミズ・ベストの説明(82頁~83頁)を踏まえれば、おおよその見当をつけることはできるのではないでしょうか。そこに関わっているマティアスが遺伝子学者であることも、その裏付けとなるでしょう。

 問題は、“人種のミックス”というコンセプトがスカラー師の(それまでの)立場と相容れないことで、そのためにスカラー師が害されたことと赤ん坊が狙われることの関係が見えづらくなっているのがうまいところです。加えて、カーソン自身の“変調”が――スカラー夫人の正体を見抜けなかったのと同じように――その目を曇らせ、スカラー師の“転向”に気づきにくい状態となり、ひいては読者もそこに思い至るのが難しくなっている、という仕掛けが秀逸です。

 また、赤ん坊を“狙った”のが対立する二つのグループだったということが、事件の様相をより複雑なものにしているところもよくできていますし、父親が巻き込まれた過去の事件に起因する復讐心によって事件の引き金を引いたベン・ベルカーが、“ミスを修正した”というのも納得できるものです。

2013.10.24読了