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黒祠の島/小野不由美

2001年発表 ノン・ノベルN-708(祥伝社)

 ネタバレなしの感想にも書いたように、この作品は独自のルールに基づくSFミステリ的な観点で面白く読むことができました。

 例えば、羽瀬川志保殺しにしても羽瀬川信夫殺しにしてもそうですが、“馬頭の裁き”という目に見える状況だけで、その結果からたやすく原因(神領英明殺し・永崎弘子殺し)を作り上げてしまう島民たちの精神性には、“因果律の逆転”というSF的アイデアと同じようなユニークさが感じられます。つまり、この島がある種の奇妙な論理に支配された場所であることを強くアピールするエピソードといえるのではないでしょうか。

 そして、犯人を指摘する決め手となった“島民であると同時に余所者でもある”という条件は、この島の信仰体系そのものから生み出されたもので、特殊な設定をうまく生かした見事なものだと思います。さらにいえば、事件の謎を解いた神領浅緋の“守護”=“解豸”としての存在や、罪と罰に関する独特の観念なども同じところから生まれてきたものだといえます。あの凄惨な解決場面は必然といえるのかもしれません。


 一方、もう一つのネタである羽瀬川志保と永崎麻里の入れ替わりについては、あまり面白さが感じられませんでした。もちろん、この作品における入れ替わりの必要性(例えば、犯人が二人の入れ替わりに気づかなかったことが手がかりとなっている、など)については理解できますが、二人が入れ替わる理由が弱く、必然性を欠いていると思います。

 そもそも、名前の交換などはともかくとして、顔のない死体が登場した時点で被害者の入れ替わりについては見え見えといわざるを得ないでしょう。それはつまり葛木志保が生きている可能性が高いということを意味するわけで、これがややサスペンスに欠けた原因の一つといえるかもしれません。

2001.03.02読了

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