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琅邪の鬼/丸山天寿

2010年発表 講談社ノベルス(講談社)

 まず“棺の中で成長する美女”の謎については、真相は合理的に考えればそれしかないというものですし、すり替えの対象となる“もう一人の死者”(執事・平の妻、女中頭の央)の存在がアンフェア気味*1に隠されているのも残念なところではありますが、死体すり替えの動機――文字通りの“墓泥棒”――はなかなか面白いと思います。

 そしてこの“棺の中で成長する美女”の謎(実際には“すり替わった死体”の謎)が迷彩となって、よもやすり替わる前の死体がすでに別人のものだとは考えにくくなっている感があります。このあたりについては、長持ちの中に“死体”が発見された場面の、“確かに長持ちの底には美しく白い顔があった。”(99頁)“笠遠は、長持ちの蓋を少しだけ開け、手を突っ込んで脈を取った。女性の死に顔を見るのを遠慮したのだろう。”(99頁~100頁)といった地の文によるミスリードが巧妙ですし、東王の“おのれ、金花め。わしは許さん。決して許さんぞ”(100頁)という台詞なども効果的です。

 数々の事件の裏には、そもそもの発端だった璧の盗難があったわけですが、それが単なる家宝ではなく斉王室の宝だということで大事件となるのにも納得させられる一方、その璧が漬物石に使われていたという人を食った真相には、さすがに苦笑を禁じ得ません。

 最後に示唆されている、無心の正体*2には思わず唖然。まさかそれほどの大物が飛び出してくるとは予想外で、“ほら吹きおやじ”の真骨頂といったところでしょうか。そして、それまでとはやや意味合いの違う“琅邪の鬼”という言葉で幕が引かれているのがまた、実に印象的です。

*1: 首に残された手形から、執事の平が殺した人物だというところまでは明らかなのですが……。
*2: 「張良 - Wikipedia」を参照。

2010.07.25読了