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もうひとりのぼくの殺人/C.ライス

Murder through the Looking Glass/C.Rice

1943年発表 森 英俊訳(原書房)

 事件の真相自体は、少なくともある程度は見当をつけることができるのではないでしょうか。まず、ブルーノの顔写真が新聞社に提供されていることから、それができそうな、日常的に彼の近くにいる唯一の登場人物であるロザリーが疑わしいことは予想できると思います(もちろん、彼女が“ジョン・ブレイクの住居”に姿を現したことが決め手となってはいるのですが)。また、“ジョン・ブレイク”の存在を裏付ける証言から、ロジャーをはじめ関係者全員が口裏を合わせているという状況も明白でしょう。

 ロザリーの関与についてはもう一つ、ロジャーの回想の中の“燃えるような赤い髪の美女”(179頁)という箇所が、彼の女性の好みを、ひいては彼の愛人がロザリーであることを示唆する伏線といえるのかもしれません(かなり強引ではありますが)

 関係者全員が共犯という状況は、かの有名な作品((以下伏せ字)『オリエント急行の殺人』(ここまで))に通じるところがありますが、積極的な関与ではなく巻き込まれた形になっている人物がいるところは、なかなか面白いと思います。

 しかし、事件の真相以上に面白いのが、被害者のルーファス・キャリントンが生前に事件の発生を予想し、あらかじめ遺言状を書き換えた上で探偵(メルヴィル・フェア氏)に依頼までしていたという、あきれるほどの手回しのよさです。そして、その事実が“犯人グループ”(の一部)にもたらす大いなる皮肉が、強く印象に残ります。

2003.05.20読了

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