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地底獣国の殺人/芦辺 拓

1997年発表 講談社ノベルス(講談社)

 本書を最初に読んだのは刊行されて間もない頃で、当時はティラノサウルス=スカベンジャー説もまだそれほど知られていなかったかもしれませんが、私はたまたま知っていたので、“scave”というダイイングメッセージの真相はすぐにわかってしまいました。
 で、いくら屍肉食いとはいえ、ティラノサウルスが本書で描かれているほど厳密に獲物の生死を判別するのかどうか疑問だったのですが、例えば「プレデターか?スカベンジャーか?」「the Review of the Collection  〜恐竜を楽しもう!〜」内)に書かれているように、少なくとも完全なスカベンジャー(屍肉しか食べない)ではないとする説が現在では主流のようです。
 本書の場合には、(もちろんフィクションとして、ではありますが)作中で完全なスカベンジャーとしての生態が描かれているので、解決も妥当(作品内では整合している)だといえるのではないでしょうか。

 冒険譚に仕掛けられた叙述トリックは、非常によくできていると思います。“神山浩”のしゃべる関西弁は気になりますが(シリーズの読者にとっては自明でしょうし、また本書でもそれとなく示されていますが、森江春策は関西人であるわけですから、その祖父である森江春之介もまた関西人である可能性が高いでしょう)、当時の新聞記事や折竹の手記の使い方、また手記と語りの双方に配置された手がかりもが巧妙です。そして何より、語り手である神山老人による悪意に満ちた二段構えの罠が、強烈な印象を残します。

2005.10.14再読了

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