猿来たりなば/E.フェラーズ
Don't Monkey with Murder/E.Ferrars
1942年発表 中村有希訳 創元推理文庫159-16(東京創元社)
“殺害”という行為によって、被害者の命が失われると同時に“被害者の死体”が出現することになるわけですが、殺人事件を扱ったミステリでは前者のみが重視されることが多く、後者の現象が注目されることはごくまれです。身も蓋もない表現をすれば、人間の死体は人間の命よりもはるかに価値がなく、命の有無ほどには死体の有無は重要ではないということでしょう。
つまり、本書のような“死体が必要だから殺す”という動機は、被害者が人間の場合には成立しにくいため、真相が見えにくくなっているところがあると思います。しかも、被害者が“猿”だというのが絶妙で、犬や猫などよりも人間に近いために、余計に惑わされてしまった感があります。
事件の真相が明らかになった時点では、全編を通じてローザ・マイアルの存在が巧妙に隠されていたことにうならされたのですが、実はさりげなく冒頭に登場していたというオチには脱帽です。
2005.04.25読了