完全犯罪に猫は何匹必要か?/東川篤哉
2003年発表 カッパ・ノベルス(光文社)
まず、第一の事件(と十年前の事件)のビニールハウスのトリックについては、大きさの違うアルミパイプが出てきた時点で見当がつきました。また、豪徳寺真紀が座った姿勢で縛りつけられていたというのもヒントになりました。
ある物体を覆いで隠しておくことでアリバイを成立させるというトリックは、横溝正史の(以下伏せ字)『獄門島』の釣鐘トリック(ここまで)を連想させるものですが、本書ではビニールハウスの半透明という特性がうまく生かされているところが面白いと思います。
よくできたトリックであるにもかかわらず、招き猫の手の左右の取り違えという些細な(?)ミスによって、犯人の“逆アリバイ”が成立してしまっているのが何ともいえません。さらに、このミスが単なる偶然ではなく、必然として描かれているところが秀逸です。
第二の事件では、鰹節を凶器として使うというアイデアだけではさほどでもありませんが、味噌汁でその痕跡を隠蔽するという奇想には脱帽です。“木の葉は森に隠せ”ならぬ“旨味成分はだし汁に隠せ”、といったところでしょうか。実際にそこまで必要なのかどうかはわかりませんが、説得力は十分にありますし、それによって生み出された奇妙な謎は非常に効果的です。
三毛猫の性別に関しては、知識としては知っていたのですが、それがここで出てくるとは思いませんでした。“招き猫のモデルはオスの三毛猫である”という俗説についてはやや強引に感じられますが、招き猫と三毛猫を鮮やかに結びつける解決は見事です。また、豪徳寺豊蔵のダイイングメッセージもよくできています。
全体的に霞流一作品よりも軽めですが、最後の最後に浮かび上がってくる豪徳寺豊蔵の狂気は、近年の霞流一作品に通じるところがあり、個人的には好みです。
2005.11.21読了