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シャーロック・ノートII 試験と古典と探偵殺し/円居 挽

2016年発表 新潮文庫nex ま45-2(新潮社)
「試験と名探偵」
 まず、想定されるカンニングの手法として、カンニングペーパーを使ったというのは妥当でしょうが、回収された問題用紙がそのまま廃棄されることを見越して、問題用紙に合わせたA3サイズのカンニングペーパーというアイデアが何とも大胆です。
 正典研究会の部室の鍵を入手するトリックは巧妙ですが、成が時巻暦に仕掛けた罠は思いのほかシンプル。もっとも、そのシンプルな罠に暦があっさり引っかかっていることが、無実の心証をもたらす要因の一つとなっている感もあります。
 いずれにしてもこのエピソードは、解決そのものよりも“探偵の側がトリックを仕掛ける”という手法、ひいては最後の“誰かを欺く方法ばっかり上手くなってる”(80頁)という成の台詞が重要で、それらが「第二章」で明らかになる芥山忌一郎への傾倒(さらにはそこからの“反転”)につながる伏線となっているのがうまいところです。

「古典と名探偵」
 北広之の視点による倒叙ミステリ風の描写で読者に対して“犯人”と“被害者”が明かされるだけでなく、金田一剛助の慧眼によって探偵たちの側でもそれが早々にそれが明らかになっているため、あとは“馬頭凱をどうやって殺すのか”がポイントになる……と思わされてしまうのが実に巧妙な罠。隠し部屋を開くモデルガンの仕掛けや改造拳銃に残されたテグスによる傷などが、いかにも“発動前の機械トリック”*1を思わせることも相まって、“犯人”と“被害者”が逆転した構図が盲点に追いやられるのが秀逸です。
 「本陣殺人事件」“三本指の痕”が、真相を見抜いたことを告げるメッセージとして使われているのが心憎いところですが、隠し部屋に痕跡を残したこと自体が、北に対する“抑止力”となるところまで考えられているのに脱帽です。

「学園裁判と探偵殺し」
 正典試験で成の成績が悪かったことは十分に示唆されているので、それが潔白の証拠となることまでは予想できなくもないのですが、まさかの〇点はさすがに衝撃的。台場我聞の“零って意味があるんですよ。〇点の零です”(49頁)という言葉に対する成の反応が伏線となっている*2ものの、作中にもあるように確率的にあり得ない*3こともあって想定しがたいのではないでしょうか。成の成績が土壇場まで伏せられた上に、“爆弾”の投下が“犯人”を見出す手段となってそちらに気を取られるため、“〇点”から試験問題自体の不正にまで思い至る余裕がなくなってしまうところも絶妙です。
 試験問題の仕掛けを見抜いた成は、それでも“これは全て試験なのだ。”(305頁)と考えていましたが、それを打ちのめす真相が強烈(我聞が教師としてしっかり生徒を指導しているように見えただけに……)。もっとも、副題や章題、さらには「プロローグ」にも登場する“探偵殺し”というワードから、犯人の悪意は読者には明らかだったわけですが、その“探偵殺し”が「第一章」で語られた我聞の教師としてのエピソードに関わる、“不名誉な称号”に端を発していたあたり、何ともいえない印象が残ります。

*1: 北山猛邦『猫柳十一弦の失敗』を参照。
*2: 金田一の“再会は突然に”(93頁)という言葉によるカクテルパーティー効果も、“最下位”を暗示する伏線といえるでしょうが、さすがにこれに気づくのは困難かと(苦笑)。
*3: 序盤に登場した“二〇パーセントの壁”に関する計算(19頁~21頁)は、“五択の試験で〇点”の確率計算の“予行演習”として用意されたものでしょうか。

2016.03.17読了