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空のオベリスト/C.D.キングObelists Fly High/C.D.King | ||||||||||||||||
1935年発表 富塚由美訳 世界探偵小説全集21(国書刊行会) | ||||||||||||||||
まず、カッター博士がカプセルの中身を吸い込んで倒れた後、死体を荷物室に移して運ぶというロード警部の処置に不自然なものを感じたのですが、あらかじめ計画された芝居だとは思いませんでした。客室と荷物室の行き来はできず、乗客も手を出すことができないのですから、よくできたアイデアだと思います。 一見複雑なアリバイ捜査ですが、荷物室でカッター博士の喉を切り裂いた“犯人”が、犯行後に一旦客室に戻ったというシンプルな手がかりが鮮やかです。 そして、何といっても、ラストに置かれたプロローグが秀逸です。事件の陰に隠された四つの殺意。フォンダの独白は、恋に落ちてしまったロード警部の未来に漂う暗雲を予感させます。さらに、ゲゼル博士の独白でロード警部の立場は暗転してしまいます。彼自身がカッター博士殺害に手を貸してしまったことになるのですから。被疑者(ティンカム)死亡とはいえ、カッター博士の遺体は検視に回されるのでしょうし。何ともいえない結末です。 しかしながら、この作品には一つ大きな問題があります。まず、巻末の手がかり索引にならって、関連する箇所を一覧表にしてみましょう。
ロード警部の上記1)の行動は非常に不自然です。この時点で警部はポンズ博士に計画を明かしていないので、カッター博士の診察を任せるのはあまりにも不用意でしょう。さらに、2)のポンズ博士の診断に何の疑問も持っていないところも問題です。3)の台詞のように“昏睡状態”になるはずだったのであれば、話も通じていないのに“死亡”と診断されるはずがありません。博士が即座に計画を見抜いて、口裏を合わせてくれたとでも思ったのでしょうか。 結局、1)の行動さえなければ何も問題なかったのですが。非常にもったいなく感じられます。 2002.02.10読了 | ||||||||||||||||
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