ミステリ&SF感想vol.12

2000.08.08
『死者の中から』 『フォックスの死劇』


死者の中から D'entre les morts  ボアロー/ナルスジャック
 1953年発表 (日影丈吉訳 ハヤカワ文庫HM31-2・入手困難ネタバレ感想

[紹介]
 重い高所恐怖症にかかっために、警察を辞めて弁護士となったフラヴィエールは、友人の頼みでその妻、マドレーヌの監視を引き受けることになった。彼女は自分を自殺した曾祖母の生まれ変わりと信じ、奇怪な行動を繰り返していた。監視を続けるうちに、次第に彼女に魅せられていくフラヴィエール。しかしある日、彼女は彼を振り切って高い鐘楼へと登り、そこから身を投げてしまった……。

[感想]

 この作品は二部構成になっています。フラヴィエールとマドレーヌの出会いと、やがて起こる悲劇を描いた第一部。そして4年後、フラヴィエールが陥っていく悪夢のような状況を描いたのが第二部です。第一部・第二部を通じて、フラヴィエールの心理状態がくどいほど丁寧に描かれていて、読者としては彼に引き込まれずにはいられません。そしてフラヴィエールを襲う繰り返しの悪夢。なかなかよくできたサスペンスです。

2000.07.27読了  [ボアロー/ナルスジャック]



闇の太守  山田正紀
 1984年発表 (講談社ノベルス・入手困難

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崑崙遊撃隊  山田正紀
 1976年発表 (角川文庫 緑446-4)

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フォックスの死劇  霞 流一
 1995年発表 (角川書店・入手困難ネタバレ感想

[紹介]
 病に倒れ、「ハモノハラ」という謎の言葉を残して死んだ映画監督。その墓から引き抜かれた塔婆が、50メートル離れたところにある建築中のカラオケボックスの、まだコンクリートも生乾きの屋上に突き立てられ、しかも犯人の足跡は残されていなかった。“オババ”こと監督夫人の依頼を受けた紅白探偵社の紅門福助は、事件の謎を探るうちに、“キツネづくし”の不可解な連続殺人事件に遭遇する……。

[感想]

 つい言ってしまうのが俺の出来心――ならば、この本をつい手に取ってしまったのが私の出来心。現代バカミス(バカ+ミステリといった方が正確でしょうか?)の巨匠・霞流一の、『同じ墓のムジナ』に続く第二作です。デビュー作は“狸”でしたが、この作品では“狐”がお題になっていて、狐に関する蘊蓄が詰め込まれています。また、怪談映画の世界が舞台となっており、この特殊な世界の事情や人間模様といったものが、物語に奥行きを与えています。次々と繰り出される滑りかけのギャグも独特のリズムを作り出しているように感じられますし、もちろん事件の方も、塔婆移動の謎に奇妙な連続殺人事件と、実に盛り沢山の内容です。

 その反面、あまりにも多くの要素が詰め込まれ、整理しきれていない部分もあります。例えば、終盤、解決すべき多くの謎を登場人物が列挙する場面がありますが、これなどは“読者が把握しきれないので説明しておく”という感じで、物語の流れから完全に浮いてしまっています(この辺はいっそのこと、“読者への挑戦状”という形にしてしまった方がいいようにも思いますが)。

 とはいえ、ミステリ部分はなかなかよくできていますし、物語も凝っています。整理しきれていない部分も、カーの一部の作品のように過剰なサービス精神が表れたものと考えられますし、読者を選ぶことは間違いないでしょうが、まずまずの作品といえるのではないでしょうか。

2000.08.02再読了  [霞 流一]



魔術師が多すぎる Too Many Magicians  ランドル・ギャレット
 1966年発表 (皆藤幸蔵訳 ハヤカワ・ミステリ1150・入手困難

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