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殺意は必ず三度ある/東川篤哉

2006年発表 ジョイ・ノベルス(実業之日本社)

 飛竜館球場のトリックは、なかなかよくできていると思います。恥ずかしながら、龍ヶ崎真知子の“球場の一塁側と三塁側が入れ替わっていたんですね!”(221頁)という台詞はおろか、231頁の(ダイヤモンドが二つある)図をみても今ひとつよくわからず、241頁の図でようやく納得した次第ですが、ダイヤモンドを二つ配置することで経路(方向)をねじ曲げるという豪快な手法で、“ダイヤモンドを横切りながら”(と見せて)バックスクリーンを経由するという不可能状況を成立させているところに脱帽です。

 もっとも、このトリックにいくつかの弱点があるのも確かです。現象としては“足跡のない殺人”に通じるところもあるものの、やはり本質的にはアリバイトリックであり*、しかも球場そのものは出入口が監視された密室状況にあったのですから、龍ヶ崎賢三が怪しくみえてしまうのは否めません(ただし、賢三自身が第二の被害者として見立て殺人に組み込まれたことで、疑惑も幾分か弱まってはいるのですが)。また、出入口に目撃者が配置された状況を考えると、共犯者の存在が浮かび上がってしまうところも難点でしょう。

 一方、ベースの巧みな使い方は圧巻というべきでしょう。まず鯉ヶ窪学園の側に目を向けさせた上で、球場トリックの中核として使われ、さらに見立て殺人の小道具という形で処分を兼ねて再利用されるという、見事なリサイクルぶり。しかも、“捕殺(正しくは“補殺”)”・“刺殺”に続く三つ目のアウトを“挟殺”とすることで、四つのベースを効率よく“消費”しているところも見逃せません。同一犯による連続殺人に見せかけるというのが、犯人が見立てを行った理由の一つであることは確かですが、別のトリックに使用した小道具を自然な形で処分するというもう一つの理由は、あまり例をみないものではないでしょうか。

 また、飛竜館高校の理事長が誰なのかを誤認させるトリックも面白いと思います。直接読者を騙すという効果ももちろんのこと、手がかりの意味を誤認させて探偵部員を誤った結論に導くというギミックが秀逸です。

*: 目撃者による監視の対象が被害者ではなく容疑者(龍ヶ崎賢三)であり、“誰も被害者に近づかなかった”のではなく“容疑者(賢三)には被害者に近づく機会がなかった”のですから、アリバイトリックの一種と考えるべきでしょう。。

2006.05.20読了

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