ストップ・プレス/M.イネス
Stop Press/M.Innes
1939年発表 富塚由美訳 世界探偵小説全集38(国書刊行会)
まず、“ストップ・プレス”という題名が真相――犯人(ルパート)の目的である〈スパイダー〉の打ち切り――を暗示しているのが面白いところです。
カーモードが代役として控えている現状では、たとえリチャードを殺しても目的が達成できないどころか、かえって逆効果になってしまうため、悪戯の標的となりながらもリチャードに身の危険はないという、何とも微妙な事件の構図がユニークです。そして、最終的に標的を切り替えたルパートが、掌を返したようにリチャードの断筆を止めにかかったことが決め手になってしまうところも気が利いています。
目的の割に事態が大げさすぎるようにも思えますが、ルパート、ウインター、そしてリチャードという三人の〈スパイダー〉がそれぞれの思惑で行動した結果であることを考えれば、それほど無理があるとはいえないかもしれません。
2006.05.19読了