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毒を食らわば/D.L.セイヤーズ

Strong Poison/D.L.Sayers

1930年発表 浅羽莢子訳 創元推理文庫183-06(東京創元社)

 毒殺トリックは意外ではあるものの、やや特殊な知識が必要となる上に、手段が身も蓋もないというか、面白味のあるものではないところが残念です。まあ、その身も蓋もなさが突き抜けているところが、バカトリックとしての魅力ともいえるのですが。

 しかしそのトリックが、一見すると完全な不可能状況を生じているところはやはり魅力です。特に、被害者のみが口にしたもの(バーガンディ)がありながら、それがしっかり封印されていたことで、余計に真相が見えにくくなっている感があります。また、ひびの入った卵に砒素を仕込み、オムレツそのものは被害者自身に作らせるという演出も巧妙です。

 何より、本書のようにハリエットの容疑が濃厚で裁判がかなり進行した段階では、よほど強力な証拠がなければ状況をひっくり返すのは困難だということを考慮する必要があるでしょう。普通の手段による毒殺ではそのような証拠を示すのは(事件からかなりの時間が経過していることもあって)ほとんど不可能だと思われますが、このトリックでは犯人が砒素を常用していたことをはっきりと示す証拠(爪と髪の毛)が残るので、十分な決め手となり得ます。その意味で、物語にこれ以上ないほどぴったりはまったトリックだといえるでしょう。

2006.07.28読了

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