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凍るタナトス/柄刀 一 |
2002年発表 本格ミステリ・マスターズ(文藝春秋) |
まず、“手配師”伊坂の行動にはかなり納得がいかないところがあります。作中で伊坂は最終的に“白い最終審問官”横内潤子に裏切られ、サスペンション処置を受けることなく命を落としていますが、そもそも“不活状態”はまったく無力な状態であり、このサスペンション処置は自分の運命を完全に他者に委ねることに他ならないはずです。しかし、作中の描写からみて、伊坂がそこまで他者を信頼できる、あるいは楽天的な思考をする人物だとは思えません。つまり、自殺してサスペンション処置を受けようという発想自体、伊坂の人物像にそぐわないのです。 また、伊坂の扱いに関しては他にも問題があると思います。まず、瀬ノ尾珠紀の意思とは独立して動いているため、事件全体がまとまりを欠いたように感じられるのが一点。そしてもう一つ、伊坂の“処置”がはっきりしないため、氷村の決断が不安定になり、結末が落ち着きの悪いものになってしまっている点です。 伊坂は非常に印象的なキャラクターとして描かれており、この作品には不可欠であるともいえるのですが、その動かし方によって物語に無理が生じているといわざるを得ないでしょう。このあたりがもう少し練り込まれていれば、もっといい作品になったのではないかと思うのですが……。 2003.07.16読了 |
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