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三人の中の一人/S=A・ステーマンUn dans trois/S.A.Steeman |
1932年発表 松村喜雄訳 イフ・ノベルズ17(番町書房) |
ネッペル医師殺害の際の弾道のトリックには、やや不満があります。犯人の位置を色々と想定することによって“原人”や“人間ガエル”が容疑者となってしまうところは面白いと思いますが、事件の真相がそうであったように、適当な踏み台があればがらりと様相が変わってしまいます。つまり、弾道の検証からは何も引き出せないということになるわけで、実際に作中では何ら決め手になっていません。これはまったく妥当なのですが、踏み台の有無が終盤までまったく検討されていないのが気になります。真相を隠すためには仕方ないとは思いますが、すっきりしない部分が残ってしまうのは否めません。 三人の被害者のうち一人だけが真の標的だったという構造は今となっては古典的ですが、この作品が書かれた時代を考慮すると先駆者として評価すべきでしょう(少なくとも、A.クリスティの有名な(以下伏せ字)『ABC殺人事件』(ここまで)よりも前であることは間違いありません)。そして『三人の中の一人』という題名はこの構造を驚くほど大胆に示しているのですが、ここに微妙なミスディレクションが仕掛けられているように感じられます。ネッペル医師殺害の時点では残った住人であるユーゴー、エレーヌ、フェルナンドの“三人の中の一人”が犯人であるようにも思えますし、弾道の検証からは“原人”、“人間ガエル”、そして普通人の“三人の中の一人”が犯人であるという風にもとれます。前述のクリスティの作品とは一味違ったユニークなミスディレクションといえるのではないでしょうか。 最後に蛇足ですが、登場人物紹介はいただけません。ウェンズ氏の名前がはっきりと書かれているために、謎の男サン・ファールの正体が見え見えになってしまっています。どのみち作中でウェンズ氏には言及されているのですから、登場人物紹介では思い切って省いてしまえば作者の趣向がより生かされることになったと思うのですが。 2001.09.24読了 |
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