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いつ死んだのか/C.ヘアー

Untimely Death/C.Hare

1958年発表 矢田智佳子訳 論創海外ミステリ33(論創社)

 題名の通り、“相続人であるジャック・ゴーマンはいつ死んだのか?”が中心となっている本書ですが、ペティグルー氏が死体を目撃していたことから、土曜日の時点ですでに死んでいたことは明らかです。そして死亡日時を偽装する動機を考えると、ジョリフに疑惑が向いてしまうのは致し方ないところ。法廷でエドナが爆弾発言を行ったことには驚かされましたが、その内容自体は予想通りといえます。

 しかし、そちらに読者の注意を完全に引きつけておきながら、最後に二つの驚き(ジャックの死の真相・ジョリフの犯罪)を用意しておく作者の企みにはしてやられました。

 まず、ジョリフにジャックを殺害する動機がないこともあって、その偽装工作が明るみに出た時点でジャックの死の状況が顧みられなくなっているのがうまいところです。ペティグルー氏が示した真相は納得できるものですし(何といっても関係者の目の前で再現されているのが衝撃的)、マレットに与えた「シルヴァー・ブレイズ号事件」というヒントも秀逸です。

 また、相続人であるジャックの死に焦点が当てられることで、被相続人であるギルバートの死が完全に盲点となっているところがよくできています。よく考えてみれば、ジャックの死に関する偽装工作はせいぜい二、三日しか効果がないわけで、その間に確実にギルバートが死んでくれないことには意味がないのですから、ジョリフとしては何らかの手を打たざるを得ないのは確かです。

 こうして万全を期したジョリフですが、エドナの妊娠と男児出産によってすべてが無駄になってしまうという、何とも皮肉な結末が印象的です。

2006.06.06読了

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