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幽霊刑事/有栖川有栖

年発表 訳 文庫118-04(社)

 いくつか盛り込まれたネタの中では、やはり漆原係長が狙われた理由が非常に秀逸です。本書は一貫して神崎の視点で記述されている上に、早川との会話が成立することに読者も慣れてしまうために、他の人には神崎の台詞が聞こえないという客観的事実が盲点となってしまう、実に巧妙な(叙述)トリックといえるでしょう。幽霊という特殊設定が導入されたミステリならではのトリックですが、その特殊設定が捜査する側のものであるために、トリックに使われることを想定しがたくなっている*1のも見逃せないところです。

 会話の中での、二階級特進という刑事ものではベタなネタ(失礼!)が巧みに利用されているのもさることながら、“妹さん”→“井本さん”の聞き間違いがまたよくできています。特に、“どんな字だか知らないけど、タツヤよ”(201頁)と、“井本辰也”の名前の方に読者の目を引きつけてあるのが巧妙です。

 取調室での経堂課長殺しは、一旦は自殺という面白味のない真相*2に落ち着くかと思わせて、電話による“誘導自殺”というひねりが加えられています。それ自体はこれまたさほどでもないのですが、神崎達也の幽霊が凶器だった”(478頁)というあまりにも皮肉な真相は、実に印象深いものとなっています。物真似が得意という手がかりにはさすがに脱力を禁じ得ませんが(苦笑)、それなりの説得力は備えていると思いますし、別に客観的な(?)証拠も用意されているところが周到です。

 経堂課長が“黒幕”に操られた理由については、新田巡査を殺害する動機を持っていたことが明かされた時点で、交換殺人であることは見え見えなので、それが最後まで引っ張られたのは少々疑問ですが、“黒幕”の動機の解明とタイミングを合わせたということでしょうか。

*1: 犯人が特殊設定を利用できないため。
*2: もっとも、佐山が凶器の拳銃を持ち去った心理は十分にうなずけるところで、うまく考えられているといっていいのではないでしょうか。

2012.01.28読了