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ヴードゥーの悪魔/J.D.カー

Papa La-bas/J.D.Carr

1968年発表 村上和久訳 (原書房)

 この作品では、ヴードゥー教が直接事件とは関係なく、完全にミスディレクションとしてのみ使われているところが逆に面白く感じられます。しかも、ヴードゥー教に関する真相の鮮やかな逆転は印象的です。

 マーゴの馬車からの消失は、途中で一度彼女が窓から姿を見せていることで一層鮮やかなものになっているのですが、逆にそれによって手段が限定されてしまうのは致し方ないとはいえ、“人間椅子”的なトリックはあまりにもお粗末といわざるを得ません。また、奇術でいうところの“あらため”が遅すぎるのも気になります。もちろん、トリックの都合上、すぐに馬車を調べることができないということは理解できるのですが、ド・サンセール氏が“隠し扉”に言及するのが早すぎるため、すぐに馬車を調べないことが余計に不自然に感じられてしまうのです。解決へとつながる、馬車の中に漂う香水の香りという伏線はまずまずだと思うのですが。

 殺人事件の犯人が“スティーブン・ホワイト”であることは、かなり早い段階で示唆されているのですが、それ以外の可能性も否定しきれないところが巧妙です。犯人が“スティーブン・ホワイト”だとすれば、得意技であるパチンコ(スリングショット)が凶器だと考えるのが自然なのですが、“主要な登場人物が全員一階のホールにいる”と誤認させられてしまうため(誰にも気づかれずにそこからパチンコを使うのは不可能)、真相に到達しにくくなっているのです。犯人が“スティーブン・ホワイト”だと確定してしまえば、可能性は一気に絞られてしまうのですが。

2003.04.13-2003.04.22読了 (原書)
2006.02.16読了