山中貞雄についての書物
山中貞雄についての書物は意外に少なく、私が眼にした限りでは、実業之日本社から1985年から’86年にかけて刊行された「山中貞雄作品集 1〜3、別巻」、甥の加藤泰が書いた「映画監督 山中貞雄」、先の「山中貞雄作品集」を一冊にまとめ、’98年に発売された「山中貞雄作品集 全一巻」。それと同時に発売された「監督 山中貞雄」だけです。
実際山中貞雄についての文献は、ある一冊の本の一部や雑誌の一特集では多くあるようですが、一冊まるまる山中貞雄についての書物は少ない様です。
「監督 山中貞雄」に基づいて並べていくと
1940(昭和15年) 「山中貞雄シナリオ集 上下巻」東京 竹村書房、山中貞雄著、筈見恒夫・三村伸太郎・岸松雄篇、小津安二郎装幀
1985(昭和60年) 「山中貞雄作品集 1〜3」実業之日本社、監修:佐藤忠男・加藤泰、解説:佐藤忠男、蓮實重彦 、滝沢一
「映画監督 山中貞雄」キネマ旬報社、加藤泰著
1986(昭和61年) 「山中貞雄作品集 別巻」実業之日本社
1998(平成10年) 「山中貞雄作品集 全一巻」実業之日本社(’85〜’86年の「山中貞雄作品集」を再編集して一冊にまとめたもの)
「監督 山中貞雄」実業之日本社、千葉伸夫編
1999(平成11年) 「評伝 山中貞雄 若き映画監督の肖像」平凡社、千葉伸夫著
2000(平成12年) 「沙堂やん」 隔週漫画誌「ビッグコミック・スペリオール」連載。原作:やまさき十三、作画:幸野武史
2001(平成13年) 「沙堂やん日本映画監督列伝3山中貞雄物語」小学館、原作:やまさき十三、作画:幸野武史(「ビッグコミックスペリオール」に連載された「沙堂やん」の単行本化)
以上です。
「山中貞雄シナリオ集」は「山中貞雄作品集」のもとになった本です。当時五十本ぐらいあった山中貞雄のシナリオを親友の岸松雄氏が中心になって編集したもの。
「山中貞雄作品集1〜3、別巻」はこれこそ山中貞雄本の決定版。最近出た「全一巻」には載っていない「人情紙風船」の三村伸太郎のオリジナルが載っています。どこかの古本屋にないですかねェ。
「映画監督 山中貞雄」は山中の甥で「沓掛時次郎・遊侠一匹」「皆殺しの霊歌」「緋牡丹博徒・花札勝負」の監督加藤泰が当時の仲間、友人、肉親達に取材して書いた伝記。山中貞雄の人柄や今では見ることの出来ない多くの作品のことがとても魅力的に書かれています。その幻の作品の数々を見たくなること間違いありません。
「評伝 山中貞雄」はもともと「山中貞雄作品集 別巻」に載っていたもの。「映画監督 山中貞雄」と同じく伝記本ですが山中を直接知る加藤泰によって、その人間性がいきいきと熱く描かれていた前者よりも映画と当時の批評などをもとに描かれた本書はクールな感じを受けます。「映画監督 山中貞雄」が手に入らない現在、彼の人柄、失われた作品について知る格好の材料だと思います。
「ビッグコミック・スペリオール」で連載され、単行本になった「沙堂やん」は山中関連の書物では最新のもの。「映画監督 山中貞雄」「評伝 山中貞雄」と読み比べてみてもわかる通りかなりフィクションの要素の多い漫画ですが山中も「丹下左膳」や「河内山宗俊」を自分流に料理して映画をとってきたわけですしそのような作風は山中貞雄へのオマージュだと私は思っております。とにかくこの漫画を読んで山中貞雄に興味を持ってくれる人が増えることを願ってます。