河内山宗俊

こうちやまそうしゅん 昭和11(1936)年/日活京都・太秦發聲作品/81分

 原作:山中貞雄、脚色:三村伸太郎、監督:山中貞雄、撮影:町井春美、音楽:西梧郎
 出演:河原崎長十郎、中村翫右衛門(なかむらかんえもん)、原節子、市川扇升、山岸しづ江、助高屋助蔵、市川莚司(のちの加東大介)

 現存する山中貞雄監督作品の貴重な一本というだけでなく、伝説の映画女優、原節子の現在見ることの出来る最も古い映像(当時16歳)としても知られている。前年のキネマ旬報2位を獲得した「街の入墨者」につづいて河原崎長十郎、中村翫右衛門をはじめとする前進座と組んだ作品。

 現存する三本の作品の中でいちばん人気が落ちるのがこの作品。昭和11年は山中にとってスランプの時期で、確かに作品のつくりもいちばん雑ですし、保存状態も悪く、画質音質ともに決して良いとはいえません。でもそんなことが映画の欠点にはなりません。画質や音質の悪い日本映画の傑作はいくつもあります。おそらく不人気の原因は「河内山宗俊」が最も普通の時代劇になってるからでしょう。「百万両の壺」の頭からしまいまでのあの突拍子のなさが「河内山宗俊」では影を潜めています。でもでも三本の中で一番手に汗握りながら見てしまうのはこの「河内山宗俊」です。それに昔の人がいう「山中貞雄の面白さ」を最も伝えている最もオーソドックスな作品が「河内山宗俊」ではないでしょうか。「百万両の壺」「人情紙風船」はどちらかというと異色作だと思います。
 この「河内山宗俊」には山中貞雄的な色んな要素があります。心根は優しいがヤクザな生活をしているヒーロー(彼は決して腕っぷしが強いわけではない)。健気に生きている純情可憐なヒロイン。彼女の生活を脅かす悪いやつら。この単純なストーリーを山中作品独特の情感あふれる美しい映像が包み込みます。

 ビデオ:日活、キネマ倶楽部(廃盤)
 LD:パイオニアLDC(「山中貞雄と日活明朗時代劇」として「丹下左膳余話・百万両の壺」「赤西蠣太」「鴛鴦歌合戦」とセットで発売)(廃盤)
 DVD:日活(2004年5月7日発売)

 

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