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私感訳注:
※この作品は『花間集』巻九にある。馮延己の「采桑子」「小庭雨過春將盡,片片花飛。獨折殘枝,無語憑闌祇自知。 玉堂香煖珠簾卷,雙燕來歸。君約佳期,肯信韶華得幾時。」に感じがよく似ている。
※毛熙震:四川蜀の人。後蜀で秘書監になる。『花間集』に29首残されているが、全て艶麗な詞。温庭 の作風に近い。
※淸平樂:詞牌の一つ。詳しくは 「構成について」を参照。この作品は、女性の身になって詠っている。
春光欲暮:春の季節も終わろうとしている。春の(季節も終わろうとして、その)光景も暮れようとしている。 ・春光:春の光景。春の季節。ここでは、季節のみならず、人生の春のこともぼんやりと感じさせる。 ・欲暮:(季節が)終わろうとしている。季節が過ぎ去ってゆくことの描写であるとともに、人生においての時間の経過をも表している。時間が過ぎ去っていく。わたしの人生の春が終わろうとしている。
※寂寞閒庭戸:寂しげで静かな屋敷では。 ・庭戸:庭や建物。屋敷。
※粉蝶雙雙穿檻舞:白いチョウが二匹そろって、欄干をくぐり抜けたりして、ひらひらと舞い飛んでいる。
・粉蝶:シロチョウ。日本風に言えばモンシロチョウ。蛇足だが、中国では上古「莊周夢蝶」から胡蝶が出て来、絵画でもよく表現される。日本との文化の差異が感じられる部分である。この作品と同じ作者毛熙震の「定西番」に「蒼翠濃陰滿院,鶯對語。蝶交飛,戲薔薇。 斜日倚闌風好,餘香出繍衣。未得玉郎消息,幾時歸。」と、蝶を春の情景の一つと同時に、花間を花を求めて飛び交うものとも描いている。
・雙雙:二つそろって。蝶はオス、メス一対で、飛ぶのに、わたしは、独りである。ということをいう。蝶は「雙雙對對飛」と、また「蝶翻輕粉雙飛」と、一つがいで飛ぶもののようだ。ここの場合と同じ用法は張泌の『蝴蝶兒』「還似花間見,雙雙對對飛。無端和涙拭臙脂,惹敎雙翅垂。」 ・穿:通る。くぐり抜ける。通す。白話では、上記の意味でよく使われる。 ・檻:欄干。手すり。 ・舞:蝶がひらひらと舞い飛ぶ。
※簾卷晩天疏雨:(雨音がしたので)閉ざしていたカーテンを捲いて外の様子を確かめると、夕暮れになった外に、まばらに雨が降り(出していた)。・簾卷:(窓の)カーテンを捲いて開けて(、外の様子を見る)。外の情景を確かめること。前出馮延己の「采桑子」「玉堂香煖珠簾卷,雙燕來歸。」に同じ。なお、後出の「幃」もカーテンであるが、「簾」は、屋内外の間にあって、内外を隔てるものであって、それに対して「幃」は、屋内に設けるとばりのこと。 ・晩天:夕方の夕暮れの空。 ・疏雨:まばらに降る雨。ぱらぱらと降る雨。
※含愁獨倚閨幃: ・愁いを帯びて、独り(女性の)部屋の幃に寄り添い。 ・倚:寄る。 ・閨:女性の部屋、女性の住む建物の部屋。 ・幃:とばり。
※玉鑪煙斷香微:宝玉の香炉の香木が尽きてしまったので、香りもかすかになってしまった。たった今、香木が燃え尽きたというのではなくて、(恋人が来るための準備として)香木を焚いておくという状況が、もはやなくなっって久しい、ということ。女性が独りぼっちになっている、ということを表現している。 ・玉鑪:宝玉でできた立派な香炉。「鑪」は「爐」に通じる。 ・煙斷香微:香木が燃え尽きてしまって、香りもかすかになった。
※正是銷魂時節:ちょうど麗しい春も終わろうとして魂も身に付かない時節である。 ・正是:ちょうど。 ・銷魂時節:たましいも身に付かない時節。麗しい春が終わって、季節が移ろう時期。
※東風滿樹花飛:春風が木に当たって、花びらを飛散させている。 ・東風:春風。
◎ 構成について
双調。四十六字。換韻。韻式は「aaaa BBB」。韻脚は「暮戸舞雨」詞韻第四部上声七虞(戸*(詞韻では上声)舞雨)、去声七遇(暮)。「幃微飛」平声五微。
○ ●(仄韻),
●○○●(仄韻)。
● ○○●●(仄韻)。
● ○●●(仄韻)。
○ ●○○(平韻)。
○ ●○○(平韻)。
● ○ ●,
○ ●○○(平韻)。
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