閬苑有情千里雪, 桃李無言一隊春。 一壺酒, 一竿身。 快活如儂有幾人? |
閬苑 情 有り 千里の 雪,
桃李 言 無く 一隊の 春。
一壺の 酒,
一竿の 身,
快活 儂(われ)の如き 幾人か有らん?
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私感注釈
※漁父:詞牌の一。単調。平韻。詳しくは下記「構成について」を参照。この作品は唐・張志和の『漁歌子(漁父)』「西塞山前白鷺飛」を意識して作ったに違いないことは、詞牌だけでなく、内容からも窺える。
※閬苑有情千里雪:仙境(とも謂うべき此処)は、なかなか趣があって、まだ残雪が遙か彼方まで残っているが。 *ここは「浪花有意千重雪」ともする。「苑有情千里雪」の場合は、枯れた仙境の情景であるが、「浪花有意千重雪」とした場合は、真っ白な波しぶきが幾重にもあがる、という動的な表現になってくる。「閬苑有情千里雪」の平仄は●●●○○●●で、「浪花有意千重雪」は●○●○○○●となり、大きく異なる。前者の方が正確。李煜は平仄の正確な詞を作るので、前者が原作といえる。更に、張志和の漁歌子を踏まえて作ったとすれば、やはり前者「閬苑…」になる。しかしながら、「閬苑…」よりも「浪花…」の方が明るく動的で清々しい魅力があるが……。
・閬苑:仙境。仙人の居るところ。「浪花」ともする。「閬」も「浪」も発音は同じ。「浪花」は、波しぶき。飛沫。 ・有情:趣がある。「有意」ともする。意味は同じ。 ・千里雪:遙か彼方まで続く雪景色。「千重雪」ともする。その場合、幾重にも雪のように白い波しぶきがあがる、ということになり、雰囲気が大きく変わる。
※桃李無言一隊春:桃李が静かに一列になって花を著けている、そんな春だ。 ・桃李無言:モモやスモモは何も語らない。「桃花無言、桃李不言」ともする。ここは、『史記』などにもある有名な「桃李不言下自成蹊」からきている。もっとも意味上は関係がない。 ・一隊:(桃李が)並んでいるさまをいう。李煜は、「魚貫列」や、この「一隊春」のように並ぶことの表現が好きなようだが、これは、国主として、臣下の整列するさまを見慣れていることからくるのか。
※一壺酒:(徳利大の)一壷の酒。
※一竿身:釣り竿一本だけを持った自分。(いささかの酒を携えて)釣り糸を垂らした自分の姿。仙郷に住む者の一つの理想の姿。ここを「一竿綸」ともする。その場合は一竿の釣り糸、になる。同義。
※快活如儂有幾人:わたしのような(世俗を超越した)楽しみをしている人は、一体どれほどいることだろうか。白居易の『想歸田園』に「戀他朝市求何事,想取丘園樂此身。千首惡詩吟過日,一壺好酒醉消春。歸鄕年亦非全老,罷郡家仍未苦貧。快活不知如我者,人間能有幾多人。」にもとづいていよう。 ・快活:(白話)楽しい。愉快。「世上」ともする。その場合は、この世の中で、になる。 ・如儂:わたしのような ・儂:〔どう、のう;nong2○〕人称代詞。詩詞では、あたし。わたし。われ。女性の自称。「我」の俗称。また、あなた。『呉方言詞典』(呉連生等著
漢語大詞典出版1995年新華路200号)289ページには「1.我。清・翟灝《通俗編》卷十八:“《樂府》子夜等歌,用儂字特多,若‘郞來就儂喜,郞喚儂底爲’之類。案呉俗自稱我儂,指他人亦曰渠儂。……《…》註:‘呉人率自稱曰儂。同我。…。2.你。…」とあり、『簡明呉方言詞典』(閔家驥等著上海辞書出版社1986年上海)174ページには「[noŋ13]代詞。1.你。……。2.舊時蘇州等地中老年婦女稱“我”爲“儂”。…」とある。これらの呉方言辞典」の内容を要約すると「基本的には『わたし』の意であるが、『あなた』の意の場合もある」ということ。一般に詩詞では、あたい。あたし。わたし。われ、といった女性の自称。「我」の俗称とする。清・呉嘉紀の『舟中記』に「儂是船中生,郞是船中長。同心苦亦甘,弄篙復蕩槳。」とある。 ・有幾人:どれほどいることだろうか。 ・幾:いくら(少ない数を聞く)。
◎ 構成について
単調。二十七字。平韻字一韻到底。韻式は「AAA」。韻脚は「春身人」で、第六部平声十一真。
●○○●●○,(韻)
○●●○○。(韻)
○●●,
●○○,(韻)
○●●○○。(韻)
2002.2.21完 2004.2.12補 2021.8.22 |
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