〔正宮調〕 醉太平
元 無名氏
堂堂大元,
奸佞專權,
開河變鈔禍根原,
惹紅巾萬千。
官法濫,
刑法重,
黎民怨;
人喫人,
鈔買鈔,
何曾見;
賊做官,
官做賊,
混賢愚;
哀哉可憐。
|
**********************
。
醉太平
堂堂たる 大元,
奸佞(かんねい) 權を 專(もっぱ)らにし,
河を 開き 鈔(せう)を 變ずるは 禍(わざはひ)の根原,
紅巾を 惹(ひ)くこと 萬千。
官法 濫(みだ)りに,
刑法 重く,
黎民(れいみん) 怨む;
人 人を 喫(くら)ひ,
鈔(せう) 鈔(せう)を 買ふ,
何ぞ曾(かつ)て 見ん;
賊 官と 做(な)り,
官 賊と 做(な)り,
賢愚を 混ず;
哀れなる哉(かな) 憐む 可(べ)し。
******************
◎ 私感訳註:
※醉太平:曲牌。この作品は、元曲の曲調『醉太平』の定格と異なる。待考。
※堂堂大元:堂々たる大元(は)。 ・堂堂:〔だうだう;tang2tang2○○〕厳(いか)めしく立派なさま。雄大なさま。態度、容姿などが立派で、気品があり、厳(いか)めしいさま。 ・大元:元の正式国号。「大元大(イェケ)モンゴル國(ウルス)」。略して「大元ウルス」。大元、大夏(=西夏)大越等の「大」は美称ではない。ただその扱いは、美称の如きものとされ、後来、元、西夏などと、「大」はとられている。
※奸佞專權:心がねじけて悪賢い人が、権力を擅(ほしいまま)にして。 ・奸佞:〔かんねい;jian1ning4○●〕心がねじけて悪賢い人。また、そのこと。人にこびへつらう人(こと)。 ・專權:〔せんけん;zhuan4quan2●○〕権力を擅(ほしいまま)にすること。勝手に権力をふるうこと。擅権。
※開河變鈔禍根原:(黄河の)河川改修工事と紙幣の新札を発行は、災厄の根源である。 ・開河:河川改修工事。天候不順のため、1342年からほぼ例年黄河が大氾濫を起こしそれに伴う無償の治水工事に数十万人の農民、民間労働者、兵士が徴発されたこと。 ・變鈔:旧紙幣の発行を停止して、新札を発行すること。新券と旧券の価値が異なり、紙幣に対しての信頼が落ちて、経済的な混乱を惹(ひ)き起こした。 ・鈔:〔せう;chao1◎〕元代の兌換券名。(兌換)紙幣名。 ・禍根原:禍(わざわい)の根源である。身にふりかかる災難のみなもとである。
※惹紅巾萬千:紅巾の賊何千何万もを惹起させた。 ・惹:〔じゃく;re3●〕ひきおこす。惹起する。ひく。ひきつける。填詞でいえば逗(領字)部分。 ・紅巾:〔こうきん;hong2jin1○○〕紅巾軍。白蓮教徒の暴徒である紅巾を巻きつけた一群。無償の治水工事に徴発された農民は、武装狂信集団の白蓮教の下に組織されて暴動を起こした。その時、紅い巾を頭に巻きつけたので、紅巾軍と呼ばれた。 ・萬千:千にも万にもなる。何千、何万。極めて多数をいう。
※官法濫:お上のお触れは、濫発され。 ・官法:お上の掟。お上のお触れ。 ・濫:〔らん;lan4●〕濫発すること。ひろがる。あふれる。みだれる。また、みだりに。むやみに。
※刑法重:刑罰は重い。 ・刑法:刑罰。罰則。
※黎民怨:人民は怨んでいる。 ・ 黎民:〔れいみん;li2min2○○〕普通の人民。人民。衆民。庶民。≒黎庶。 ・怨:うらみ。
※人喫人:人が人を食べる、凄まじい世情。 ・人喫人:人が人を食べる。魯迅も書き、秋瑾も『寶劍歌』「炎帝世系傷中絶,茫茫國恨何時雪?世無平權祗強權,話到興亡眦欲裂。千金市得寶劍來,公理不恃恃赤鐵。死生一事付鴻毛,人生到此方英傑。饑時欲啖仇人頭,渇時欲飮匈奴血。」 凄まじい世情をいう。秋瑾は激情を表した。但し、『舊唐書』等の史書では文学的な修辞ではなく、事実として記録されている。
・喫:〔きつ;chi1●〕食べる。
※鈔買鈔:紙幣でもって、価値の変化した紙幣を買う。社会的に、紙幣の本来の目的である経済上の交換手段としての性質が、失われていったことをいう。
※何曾見:(このようなことは)今まで見たことがあろうか。 ・何曾:〔かそう;he2ceng2○○〕どうして…(った)だろうか。なんぞかつて。 ・見:
※賊做官:賊であった者が官吏となり。 ・賊:反政府側の人物。君国に叛(そむ)く者。叛逆者。謀叛(むほん)人。 ・做:…となる。 ・官:統治者側の人員。官衙(かんが)に勤める人。官吏。
※官做賊:官吏であった者が賊となる。
※混賢愚:賢人と愚者とが入りまじっている。 *玉石混淆であるということ。 ・混:(入り乱れて)まざる。まじる。 ・賢愚:〔けんぐ;xian2yu2○○〕賢い人と愚かな者。
※哀哉可憐:いたましいことで、あわれなことだ。 ・哀哉:いたましくあわれで、哀しいことだなあ。 ・可憐:あわれである。不憫である。かわいそうである。かなしいことだなあ。かなしむべきことだなあ。
****************
◎ 構成について
韻式は「AAAAaAaAA」(恐らくこのような韻式はなかろう)。韻脚は「元權原千怨人見憐」か?ややこしい。定格でないので推測になる。詞韻第六部平声去声。次の平仄はこの作品のもの。
○○●○,(韻)
○●●○。(韻)
○○●○●○○,(韻)
● ○○●○,
○●●,
○●●,
○○●,
○●○,
○●○,
○○●;
●●○,
○●●,
●○○,
○○●○。(韻)
漢詩 唐詩 漢詩 宋詞
次の詩へ
前の詩へ
「唐宋・碧血の詩篇」メニューへ戻る
**********
辛棄疾詞
陸游詩詞
李U詞
李清照詞
花間集
婉約詞
歴代抒情詩集
秋瑾詩詞
天安門革命詩抄
毛主席詩詞
碇豊長自作詩詞
豪放詞 民族呼称
詩詞概説
唐詩格律 之一
宋詞格律
詞牌・詞譜
詞韻
詩韻
参考文献(宋詞・詞譜)
参考文献(詩詞格律)
参考文献(唐詩・宋詞)
|
わたしの主張