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  馮延巳

   謁金門
風乍起,
吹皺一池春水。
閑引鴛鴦香徑裡,
紅杏蕊。


鬥鴨欄杆獨倚,
碧玉掻頭斜墜。
終日望君君不至,
舉頭聞鵲喜。


******

謁金門
風  乍ち起こり,
吹き皺む  一池の春水を。
鴛鴦を 閑引
(まね)く  香徑の裡,
手に
(も)む  紅き杏の 蕊。


鴨を鬥はせて  欄杆に 獨り倚れば,
碧玉の 掻頭  斜に墜つ。
終日 君を望みて  君 至らざれど,
頭を舉ぐれば  鵲喜 聞こゆ。

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◎ 私感註釈


※謁金門:詞牌の一。詳しくは下記の「構成について」を参照。
※馮延巳:九〇三〜九六〇年。延嗣ともいう。字は正中。廣陵の人(現・江蘇省揚州)。南唐の元宗李m(南唐中主;李Uの父)の時に宰相となる。一国の宰相らしからぬ詞を作る多芸の人。
※乍:たちまち。突然に。急に。
※風乍起:風が突然起こり。
※吹皺:(風が吹いてきて、水面に)さざ波の波紋が広がっていくこと。皺:しわ。ここでは、風によって出来る波紋のこと。
※一池春水:李Uの虞美人に「…恰似一江春水 向東流。」がある。
※吹皺一池春水:この本来の意味とは別に、現代語での比喩として「他人のことにお節介をする。」という意味で使われている。
※閑引:手持ちぶさたで…を招き寄せる。引:(白話)招く。「閑」で、何することもなく時間をつぶしていることを表している。
※鴛鴦:オシドリ。鴛鴦。水鳥の一。
※香徑裡:花の咲いた香しい小道で。香:花を意味する。徑:小道、小径。裡:中。…で。…の中で。
:手でもみくちゃにする。もてあそぶ。軽くこねる。「」も、手持ちぶさたで、時間をつぶしていることを表している。
※紅杏蕊:赤いアンズのズイ。
※鬥鴨:アヒルを闘わせて、勝負をかける遊び。闘鶏のアヒル版。鴨:カモ、アヒル類の総称であるが、普通はアヒルを指す。厳密に区分するには家鴨がアヒル。野鴨がカモ。現代語もこれに同じ。」これも、手持ちぶさたで、何することもなく時間をつぶしていることを表している。
※欄杆獨倚:(高殿の)欄干に独寄り添う。物思いに耽る詞の常套表現でもある。
※碧玉掻頭:碧玉の簪。掻頭:かんざし。
※斜墜:斜めに落ちる。心を痛めることが多いので、髪の毛も薄くなりかんざしが抜け落ちた。杜甫の「春望」「國破山河在,城春草木深。感時花濺涙,恨別鳥驚心。烽火連三月,家書抵萬金。白頭掻更短,渾欲不勝簪。」を踏まえているか。
※終日:一日中。
※望君君不至:あなたを待っていたが、あなたは来なかった。
※舉頭:見上げる。
※鵲喜:カササギの鳴き声は、喜びが訪れる前兆。鵲語。 ・鵲:カササギ。
※聞鵲喜:カササギの縁起良い鳴き声が聞こえてきた。きっといいことが起こるだろう。
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◎ 構成について

 双調。四十五字。仄韻一韻到底。
           
韻式は「aaaa aaaa」。韻脚は「起水裏蕊 倚墜至喜」で第三部 主として上声、一部去声。詞調は次の通り :


   
●,(仄韻)
   ○○●。
(仄韻),
   ○○●●,(仄韻) 
   
○○●●(仄韻),


   ●,
(仄韻)
   ○○●。(仄韻)
   ○○●●,(仄韻)
   ○○●●。(仄韻)

2001. 7.27
      7.28完

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