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繁華事散逐香塵,
流水無情草自春。
日暮東風怨啼鳥,
落花猶似墜樓人。
金谷園
繁華の 事は散ず 香塵を 逐ひて,
流水は 無情なれど 草は 自ら 春たり。
日暮 東風に 啼鳥を 怨めば,
落花 猶も似たり 樓より墜ちたる人に。
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◎ 私感註釈
※金谷園:西晋の石崇が洛陽の北の金谷に建てた別荘の庭園で、石崇は。ここで愛妾の緑珠と暮らしていた。「晉書列傳卷三十三石苞傳」に「子(石)崇」として「崇有妓曰克,美而艷,善吹笛。孫秀使人求之。(石)崇時在金谷別館,方登涼臺,臨C流,婦人侍側。」この詩は石崇とその愛人の緑珠の純情と自殺の故実がテーマとなっている。
※繁華:石崇の生活が豪奢だったことを謂う。
※散:散じてしまった。なくなってしまった
※逐:…にしたがって。…を追って。
※香塵:塵に香りが移ったこと、花が散ったこと。今まで吹いていた風で花が散ってしまったことを表す。また、沈香を削った粉。石崇の家で働く歌妓が軽やかに舞えるかを試すために、床に沈香を削った粉を撒き、その上を歌妓に通らせ、足跡がつかなかった者には褒美として真珠を与え、跡がついた者には罰として食べ物を減らしてダイエットをさせたという。
※流水:ここでは金谷水。過ぎゆく時間をも謂う。
※草自春:草は自然に春の装いをする。天の運行を謂う。「人為」ということのはかなさを暗々裏に云っている。 ・春:春の装いをする。ここでは動詞として使われている。「草自生」としたほうがより自然だが、「春」は韻脚故。
※日暮:ゆうぐれ。日が暮れる。
※東風:春風。
※怨:うらめしく思う。
※啼鳥:鳥が啼く。鳥の鳴き声。
※落花:花が散る。
※猶似:なおも似ている。
※墜樓人:身投げをした人。石崇の愛妾の緑珠のこと。前出「晉書・石崇傳」では「孫秀は、石崇の愛妾である緑珠の美しさに惹かれ、緑珠をくれるように石崇に要求したが、『あれは私が愛しているので、だめだ』と断ったので、孫秀は罪に陥しいれて、石崇を捕らえようとしたところ、緑珠は涙を流して泣きながら、『ご主人様の前に命を捧げましょう』と言ってたかどのから身を投げて死んだ。」「崇有妓曰克,美而艷,善吹笛。孫秀使人求之。崇時在金谷別館,方登涼臺,臨C流,婦人侍側。……(石)崇勃然曰:「克吾所愛,不可得也。」……(孫)秀怒,乃勸倫誅崇…。崇…亦潛知其計,乃與黄門カ潘岳陰勸淮南王允、齊王冏以圖倫、秀。秀覺之,遂矯詔收崇…。崇正宴於樓上,介士到門。崇謂克曰:「我今爲爾得罪。」克泣曰;「當效(效:いたす)死於官(官:きみ。主人)前。」因自投于樓下而死。」とある。
「墮樓人」ともする。杜牧の「題桃花婦人廟」にも「至竟息亡縁底事,可憐金谷墮樓人。」と出てくるが、それも同義。平仄からだけでいうと「墜」が●となり、都合がいい。
◎ 句の大意
・繁華事散逐香塵:石崇の豪華な生活も沈香の粉が飛散するのとともに、消滅してしまったが、
・流水無情草自春:川の流れも年月も無情に過ぎ去って、天の運行のみきっちりと変わることなく訪れ、草は自然と春の装いをしている。
・日暮東風怨啼鳥:日暮れの春風に、鳥の鳴き声がうらめしく、
・落花猶似墜樓人:散る花は、なおも身を投げた緑珠のようである。
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◎ 構成について
七絶平起。韻式は「AAA」。韻脚は「塵春人」で、平水韻上平十一真。以下の平仄は、この作品のもの。
●○●●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
●●○○●○●,
●○○●●○○。(韻)
2002.7.13 7.15完 |
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