唐詩格律(平仄式)
※ はじめに
このページは、「唐詩格律」の続きで、平仄式から述べています。もし、トップページから直接このページを御覧になった場合は、「唐詩格律」(作詩法)の方から先に御覧下さい。
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4.平仄式
漢語は、基本的には一音=一義=一字ではあるが、上古を除き、漢字二字から成る複合語(日本語で云う漢語、
熟語)が発達してきており、語彙が豊富になり、
双声、
畳韻等の美しさを重視する言葉も生まれて
いる。とりわけ、詩詞の美しさは、その複合語(日本語で云う漢語、熟語)の漢字二字が、原則として「平平」
となるか「仄仄」となるかにするようにし、その「平平」と「仄仄」を交替に組み合わせて美しい響きを出して
いるのである。(実際、現代中国人が詠む時も、先程述べた切り方に従う外に、「長」「長」、「短」「短」
という二字単位の長短律、また昇降律の美しさが出るようにしている。)
例えば、五言詩の場合、第一句の始めの二字が「仄仄」ならば、続く二字は「平平」、最後に「仄」となる。
続けて書くと「仄仄・平平・仄」等となるのである。
●●・○○・●
このような二音単位の長短律(昇降律・高低律)の組み合わせの妙が平仄式なのである。その大きな約束事を順次
紹介する。
(1)反法
「反法」とは、第一句と第二句は、平仄の並び具合が、基本的に逆になることである。
例えば、五言詩の場合、第一句の始めの二字が「仄仄」ならば、続く二字は「平平」、最後に「仄」となる。
第二句は、その逆に「平平」「仄仄」「平」という具合に、第一句と第二句は、平と仄が完全に逆になる。
第一句と第二句を図示すると、それが極めて明瞭になる。(平…
○,仄…
●)
五言詩(仄起)
●●○○●, (第一句)
○○●●○。 (第二句)
或いは、平から始まるとすれば(平起)
○○○●●, (第一句)
●●●○○。 (第二句)
と言う具合に、見事に逆になっている。
句の最後は、「仄起平収」とでもいうべき形で、第一句は仄字で、第二句は平字で、韻を踏む。
七言詩の場合、第一句の始めの二字が「平平」ならば、続く二字は「仄仄」、「平平」と入れ替わり、最後に「仄」となる。続けて書くと「平平仄仄平平仄」となる。
第二句は、その逆に「仄仄」「平平」「仄仄」「平」という具合に、これも第一句と第二句は、平と仄が完全に逆になる。これを「反法」という。
図示すると次のようになる。
七言詩(平起)
○○●●○○●,(第一句)(韻を踏まない場合)
●●○○●●○。(第二句)
或いは、仄から始まるとすれば(仄起)
●●○○○●●,(第一句)(韻を踏まない場合)
○○●●●○○。(第二句)
以上が反法である。なお、第三句と第四句の間でも、反法にする。
(2)粘法
「粘法」とは 第二句は、第三句とほぼ同じ形を繰り返す。これを粘法という。(ただ、第二句は韻を踏むので、
第三句とは完全に同じにはならない。)
(A)五言絶句(仄起式)
○○●●○。 (第二句)
○○○●●, (第三句)
(B)五言絶句(平起式)
●●●○○。 (第二句)
●●○○●, (第三句)
(C)七言絶句(平起式)
●●○○●●○。 (第二句)
●●○○○●●, (第三句)
(D)七言絶句(仄起式)
○○●●●○○。 (第二句)
○○●●○○●, (第三句)
この四種類があるが、いずれも第二句と第三句は、押韻の部分を除けば、ほぼ一緒なのがよく分かる。
これら反法・粘法をまとめると、次の通りである。
(A)絶句
┏
●●○○●, (第一句)
反
法
┣
○○●●○。 (第二句)(押韻)
粘
法
┣
○○○●●, (第三句)
反
法
┗
●●●○○。 (第四句)(押韻)
(B)律詩
┏
●●○○●, (第一句)
反
法
┣
○○●●○。 (第二句)(押韻)
粘
法
┣
○○○●●, (第三句)
反
法
┣
●●●○○。 (第四句)(押韻)
粘
法
┣
●●○○●, (第五句)
反
法
┣
○○●●○。 (第六句)(押韻)
粘
法
┣
○○○●●, (第七句)
反
法
┗
●●●○○。 (第八句)(押韻)
(3)律詩と絶句
各形式毎に平仄の並び方をまとめると次のようになる。なお、中国の詩書は、どれもが律詩から論じ、
日本の詩書は絶句から論じている。 これは、おそらく中国の詩書は元の范
等の律詩截断説に基づき、 律詩を切って絶句が出来た、との立場を採っているのか、律詩の説明は丁寧にするものの、絶句はただ「律詩の半分である」
と、素っ気ない。
また、日本人にとっては漢語の長詩が大変なためなのか、或いは短歌・俳句等の短詩型の韻文の伝統があるためなのか
分からないが、日本の詩書は絶句から話を始める。とりわけ七言絶句である。わたしたち日本人も、この詩形を好んで作ってきた。このページでも日本の伝統に従って、絶句から始めている。
韻は、どの形式も、偶数句(第二句、第四句等)で、平韻(五言では仄韻も)で押韻する。但し、七言は、(第一句も韻を踏むことを通例とする。
なお、絶句の第一句は起句、第二句は承句、第三句は転句または、腰句、折句、第四句を結句または合句というのはご存じの通り。
以下に平仄式を掲げる。先ず、律詩、絶句の基本的な形を示す。
(4)絶句・律詩の平仄式
(甲)絶句
五言絶句は、基本として、平声韻の押韻をする。以下は、平声押韻の例。
(A)
五言絶句(仄起式:正格)
●●○○●, (第一句)「仄仄」から始まる。それ故、この形式を仄起式という。
○○●●○。 (第二句)(この場合、平韻の押韻)
○○○●●, (第三句)
●●●○○。 (第四句)(この場合、平韻の押韻)
(A’)五言絶句(仄起式:偏格:首句押韻)
●●●○○, (第一句)(この場合、平韻の押韻)
○○●●○。 (第二句)(この場合、平韻の押韻)
○○○●●, (第三句)
●●●○○。 (第四句)(この場合、平韻の押韻)
(B)五言絶句(平起式:正格)
○○○●●, (第一句)「平平」から始める。それ故、この形式を平起式という。
●●●○○。 (第二句)(この場合、平韻の押韻)
●●○○●, (第三句)
○○●●○。 (第四句)(この場合、平韻の押韻)
第一句と第二句は逆にし、第二句と第三句は似通った形にする。完全に一致しないのは、第二句末は平韻で押韻するが、
第三句は仄字になる。そのために少しだけ変わることになる。この似通った形にすることを粘法という。初唐等格律が定まるまでは、粘法をしない場合がある。これを失粘(しってん)という。
(C)七言絶句(平起式:偏格)
○○●●○○●, (第一句)「平平」から始める。それ故、この形式を平起式という。
●●○○●●○。 (第二句)(平韻の押韻)
●●○○○●●, (第三句)
○○●●●○○。 (第四句)(平韻の押韻)
こうすると平仄が交替してきちんと並び、第一句と第二句の間で、また第三句と第四句の間で、平仄がきれいに入れ替わっているのがよくわかる。しかし、七言絶句は第一句も押韻するのが正格なので、実際は、次のようになるものが多い。
(C')七言絶句(平起式:正格:首句押韻。)
○○●●●○○, (第一句)(平韻の押韻)
●●○○●●○。 (第二句)(平韻の押韻)
●●○○○●●, (第三句)
○○●●●○○。 (第四句)(平韻の押韻)
(D)七言絶句(仄起式:偏格)
●●○○○●●, (第一句) 「仄仄」から始まる。それ故、この形式を仄起式という。
○○●●●○○。 (第二句)(平韻の押韻)
○○●●○○●, (第三句)
●●○○●●○。 (第四句)(平韻の押韻)
(D')七言絶句(仄起式::正格:首句押韻)
●●○○●●○, (第一句)(平韻の押韻)
○○●●●○○。 (第二句)(平韻の押韻)
○○●●○○●, (第三句)
●●○○●●○。 (第四句)(平韻の押韻)
これらが平仄の上から見た絶句の基本的な形である。表現内容から見た絶句は後で述べる。
(乙)律詩
中国の詩書は、律詩の半分に截断されたものを絶句とした立場で、律詩を主とし絶句を従とする。そのため中国の詩書では、律詩の解析は詳細を極めている。先ず韻式を掲げる。
(A)五言律詩(仄起式:偏格)
●●○○●, (第一句)
○○●●○。 (第二句)(この場合、平韻の押韻)
○○○●●, (第三句)
●●●○○。 (第四句)(この場合、平韻の押韻)
●●○○●, (第五句)
○○●●○。 (第六句)(この場合、平韻の押韻)
○○○●●, (第七句)
●●●○○。 (第八句)(この場合、平韻の押韻)
(A’)五言律詩(仄起式:首句押韻)
●●●○○, (第一句)(この場合、平韻の押韻)
○○●●○。 (第二句)(この場合、平韻の押韻)
○○○●●, (第三句)
●●●○○。 (第四句)(この場合、平韻の押韻)
●●○○●, (第五句)
○○●●○。 (第六句)(この場合、平韻の押韻)
○○○●●, (第七句)
●●●○○。 (第八句)(この場合、平韻の押韻)
(B)五言律詩(平起式:偏格)
○○○●●, (第一句)
●●●○○。 (第二句)(基本として、平韻の押韻)
●●○○●, (第三句)
○○●●○。 (第四句)(基本として、平韻の押韻)
○○○●●, (第五句)
●●●○○。 (第六句)(基本として、平韻の押韻)
●●○○●, (第七句)
○○●●○。 (第八句)(基本として、平韻の押韻)
(B’)五言律詩(平起式::首句押韻)
○○●●○, (第一句)(基本として、平韻の押韻)
●●●○○。 (第二句)(基本として、平韻の押韻)
●●○○●, (第三句)
○○●●○。 (第四句)(基本として、平韻の押韻)
○○○●●, (第五句)
●●●○○。 (第六句)(基本として、平韻の押韻)
●●○○●, (第七句)
○○●●○。 (第八句)(基本として、平韻の押韻)
(C)七言律詩(平起式:首句押韻。正格)
○○●●●○○, (第一句)(平韻の押韻)
●●○○●●○。 (第二句)(平韻の押韻)
●●○○○●●, (第三句)
○○●●●○○。 (第四句)(平韻の押韻)
○○●●○○●, (第五句)
●●○○●●○。 (第六句)(平韻の押韻)
●●○○○●●, (第七句)
○○●●●○○。 (第八句)(平韻の押韻)
(C’)七言律詩(平起式:首句韻踏み落とし。)
○○●●○○●, (第一句)
●●○○●●○。 (第二句)(平韻の押韻)
●●○○○●●, (第三句)
○○●●●○○。 (第四句)(平韻の押韻)
○○●●○○●, (第五句)
●●○○●●○。 (第六句)(平韻の押韻)
●●○○○●●, (第七句)
○○●●●○○。 (第八句)(平韻の押韻)
(D)七言律詩(仄起式)
●●○○●●○, (第一句)(平韻の押韻)
○○●●●○○。 (第二句)(平韻の押韻)
○○●●○○●, (第三句)
●●○○●●○。 (第四句)(平韻の押韻)
●●○○○●●, (第五句)
○○●●●○○。 (第六句)(平韻の押韻)
○○●●○○●, (第七句)
●●○○●●○。 (第八句)(平韻の押韻)
(D’)七言律詩(仄起式:首句押韻踏み落とし。)
●●○○○●●, (第一句)
○○●●●○○。 (第二句)(平韻の押韻)
○○●●○○●, (第三句)
●●○○●●○。 (第四句)(平韻の押韻)
●●○○○●●, (第五句)
○○●●●○○。 (第六句)(平韻の押韻)
○○●●○○●, (第七句)
●●○○●●○。 (第八句)(平韻の押韻)
こうして平仄式を見てみると、別のページに載せている宋詞とは違って、実に簡単である。
五言詩では、
頭が仄韻字の句は
●●○○●と
●●●○○(平韻の場合、韻を踏む)であり、
頭が平韻字の句は、
○○●●○(平韻の場合、韻を踏む)と
○○○●●である。
七言詩では、
頭が平韻字の句は、
○○●●●○○と
○○●●○○●であり、
頭が仄韻字の句は、
●●○○●●○(韻を踏む)と
●●○○○●●である。
それぞれ、この四種類に限られている。それを約束事に従って、組み合わせていくだけである。以上が平仄式の原則である。次に、これを発展・変化させた形を見ていく。
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