Xin Qiji ci


   辛棄疾詞
xinqiji XinQiji xin qiji Xin Qiji Shici Shijie shicishijie

鷓鴣天

有客慨然談功名,因追念少年時事,戲作。        

壯歳旌旗擁萬夫。
突騎渡江初。
燕兵夜銀胡
漢箭朝飛金僕姑。


追往事,
歎今吾。
春風不染白髭鬚。
却將萬字平戎策,
換得東家種樹書。




******

鷓鴣天

 客 有りて  慨然として 功名を談ず, 因って 少年時事を 追念し,戲れて作る。
     

壯歳 旌旗  萬夫を擁し。
 突騎  渡江の初め。
燕兵 夜に る  銀胡を,
漢箭 朝に 飛ばす  金僕姑を。


往事を 追ひ,
今の吾を 歎ず。
春風は 染めず  白き髭鬚を。
却て 萬字の 平戎策を  將
(も)って,
換へ得ん 東家  種樹の書に。



      **********

私感註釈

※鷓鴣天:詞牌の一。詞の形式名。詳しくは下記の「構成について」を参照。上片は、若い頃の抗金闘争で武勲をたてた昔を思い出して詠っており、下片は、過去に引き比べ、閑却され、空しく歳月を過ごしている嘆きと不満を詠う。蛇足だが、表外字が多くて難儀した詞。

※有客慨然談功名,因追念少年時事,戲作:〔客 有りて  慨然として 功名を談ず, 因って 少年時事を 追念し,戲れて作る〕。 ・有客:…のような客が来て。なお、この句は「〔有客〕〔慨然談功名〕」とは切れない。「有客慨然談功名」は兼語文(文の前半では目的語となり、文の後半では主語となり、同一の単語が二つの役割を兼ねる)の構成をとる。「有客慨然談功名」は〔「有客」+「(客・)慨然談功名」〕(客が有り)((その)客は慨然として功名を談じていた)。ただし読み下しは、日本語の滑らかさを重視して切って読んでいるが正確ではない。ここは〔有+客・慨然談功名〕とでも切るべきところ。『論語』の「有朋自遠方來」と同じ文型。慨然:(白話)感慨深く。談功名:功名を談じる。因:それゆえ。 ・追念:追想する。 ・少年時事:年若いときの出来事: ・戲作:たわむれにつくる。実際には戯れてはいない。皮肉っている。

※壯歳旌旗擁萬夫:少壮の時、軍旗の下で、多くの兵士を率いて(金と闘った)。 ・壯歳:少壮の時。旌旗の下、萬夫を擁して金と闘ったのは、年表に拠ると二十二歳の時になる。 ・旌旗:軍旗。 ・擁萬夫:多くの兵士を率いて。

※錦突騎渡江初:錦の上着を着た騎馬軍団は、包囲を突破して(敵陣を攻撃し)河を渡って南帰した当初は。 ・錦:錦の短い上着。 ・突騎:突き進む騎馬兵。金と勇敢に戦かい、包囲を突破して南帰した辛棄疾の一隊。 ・渡江初:河を渡った当初。南帰した当初。

※燕兵夜銀胡:金兵は、夜に銀のやなぐいを整え、戦闘の準備をしている。後に来る「漢箭朝飛金僕姑」と対になっている。 ・燕兵:金兵。 ・燕:現・河北省、北京一帯にあった古代の国名。(燕の位置(金國)なお、現在の北京のところは、燕京といった。 ・夜:夜に隊伍を整え、準備する。 ・:(白話)(隊伍を)整える。 ・銀胡:銀のやなぐい。やなぐい、えびら、矢を入れるいれもの。また、えびらを、「聴診器」の様にして使い、片側を地面に当て、片側を耳に当て、離れたところの人馬の動静を探る「地聴」の用法もある。

※漢箭朝飛金僕姑:漢民族側の軍は、朝になって矢を飛ばす。 ・漢箭:抗金側の矢。漢民族(漢朝、宋朝)側の矢。 ・朝飛:あさにとばす。「夜」に対応している。 ・金僕姑:矢の名前。。『左傳・莊公十一年』の条に「公以金僕姑射南宮長萬。」とある。

※追往事:往事を追憶する。昔を思う。

※歎今吾:今の自分(の境遇を)嘆く。

※春風不染白髭鬚:春風は(冬枯れの大地を生気に溢れた緑の色に染め上げた。しかし、わたしの)白くなったヒゲを染め上げて、生気を取り戻してくれるということはなかった。 ・春風:春風は冬枯れの大地を緑の色に染め上げる。ここは歐陽脩の聖無憂(烏夜啼のこと)の「好景能消光景,春風不染髭鬚」からきている。 ・不染:(しかしながら、わたしの白いヒゲは)染めなかった。 ・白髭鬚:白いヒゲ。髭鬚:ひげの総称。髭:口(の上の)ヒゲ。鬚:あごヒゲ。

※却將萬字平戎策:しかしながら、却って多くの文で書かれたえびすを平定する方略の文書を將(も)ってして(種樹書と交換する)。祖国のために、敵を撃滅する良策を献じたが朝廷に採用されないことに対しての落胆を表している。辛棄疾は『美芹十論』『九議』等を上奏している。 ・却將:でも、…を。しかしながら、却って…を將(も)って。キ將とするのもある。その場合はキ(すべ)て…を將(も)って。 ・萬字平戎策:厖大な文章量の異民族の金を平定する方策。 ・萬字:多くの文で書かれた。 ・平戎:えびすを平定する。 ・策:方略、方策。

※換得東家種樹書:(もう、その書類は隣家に譲り渡して、)換わりに農業の書物をもらい、隠棲しよう。護国の方略の献策が採用されないことに対しての落胆を表している。 ・換得:…に換える。換え得て。 ・東家:東隣の家。隣の家。文字の通りの意味で、日本人は戸惑うことがない語。蛇足だが、現代語では、出資者、主(ぬし)の意味があり、「東」だけでも主人、の意味がある。東家は古語でも家主、宿屋の主人の意味もある。 ・種樹書:農業書。隠棲を暗示している。韓愈の詩に「送石洪」「長把種樹書,人云避世士」とあるが、ここは、全く同義。この時代、農業技術の飛躍的な発展があり、それに寄与したものに1154年に刊行された陳の『農書』がある。それは、現代語の語感より、より先進的、技術的な響きがある。ここでは、やはり、政治世界からの隠棲を暗示する農業技術書。 ・種:〔しゅ;zhong4●〕うえる。動詞。








◎ 構成について
   双調。五十五字。平韻一韻到底。韻式は「AAA AAA」。韻脚は「夫初姑 吾鬚書」で、第四部平声

●○○●○,(平韻)
●●○○。(平韻)
○●,
●○○●○。(平韻)


○●●,

●○○。(平韻)
●●○○。(平韻)
●○○●,
●○○●○。(平韻)

***********************
2001. 7.13
       7.14
       7.17
       7.19完
      8.27補
2002.12.22
2018.10.18
     10.20

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