蒼井上鷹 15 | ||
あなたの猫、お預かりします |
2年半ぶりの蒼井上鷹さんの新刊が出ていたことを、すっかり見落としていた。嬉しい文庫での刊行。遅れ馳せながら手に取ったが、2年半の沈黙の間に、独特の「奇妙」さにさらなる磨きがかかっているではないか。
「ホットドッグが好きな犬」。意中の人を振り向かせるには、まずはペットから…という呆れた2人だが、犬にその手は通用しなかったねえ。「あなたの猫、お預かりします」。家賃を滞納した挙句に誘拐計画を思いついた、これまた呆れた2人。ただし誘拐するのは猫。ドタバタの末に、結果オーライというか何というか…。
「メダカたちは見ていた」。別れた彼が、ときどき残していったメダカの世話をしていくという…。警察に何と説明するか? それにしても、ここまで体を張るのかよ…。「鳥の気も知らないで」。青年と少女と鳥ともう1匹の一夏の思い出…と言っていいのかどうか。
「うちの猫を責めないで」。猫が動くものを襲うのは本能。そう、猫を責めることはできない。責められるべきは浅はかな人間たち。よかれと思ってしたことが…まさかのオチ。「いつも犬がそばにいた」。こういう症状の辛さは、僕にはわからない。ペットにしてみれば、悪用されようが知ったことじゃないよなあ…。
いずれもペットが絡んでいるのが第1の特徴だが、各編ともよくこんな微妙なシチュエーションを思いつくものだと感心する。さらに各編が繋がり合っているのが第2の特徴だが、この繋がり方がまた微妙なのである。つまらなくはないけど徹底的に微妙。時折見せた切れ味は完全に封印したか。蒼井上鷹は微妙道を極めつつある。
最後の「帰ってきたペットたち」が、各編のあれやこれやを回収しているかと思えば、回収しているようなしていないような…。読後感もやっぱり微妙だった。
もう1つ特徴があった。ペットがテーマなのに、本当にペット好きな人物がほとんどいない。ペットに危害が加えられることはないのが救いだろうか(未遂はあるが)。ペットを飼うという行為自体、人間のエゴだと思う。