有川 浩 02


空の中


2011/08/07

 有川浩さんの自衛隊3部作の「空」編である。「陸」編『塩の街』を読んだ後、先に「海」編『海の底』を読んだのだが、いやはや、スケールの大きさが桁違いである。

 200X年、高度2万メートルの高空で相次いだ謎の航空機事故。1月には国産輸送機開発プロジェクトの一号試験機「スワローテイル」が、2月には演習中の航空自衛隊のF15Jが、乗員もろとも爆発した。「スワローテイル」のメーカーの担当者・春名高巳と、生き残った空自のパイロット・武田光稀は、調査のために高空に飛んだ…。

 一方、高知県では高校生の瞬と佳江が謎を生物を拾った。高巳と光稀が高度二万メートルで目撃した謎の正体と、この生物には接点があった。やがて、日本を襲う危機に、高巳と光稀だけでなく瞬と佳江も巻き込まれることになる。

 いやあ、よく思いついたなこんな設定。ライトノベルのレーベルである電撃文庫発だからこそ、この自由度が許されたと思う。人類の危機を描いた映画・小説は古今東西数あれど、本作の発想と面白さはそのいずれにも負けていない。

 凄惨さという点では『海の底』の方がはるかに上だろう。本作でも未知の攻撃に少なからず人命が失われるが、実はそういうシーンは少ない。詳しくは書けないが、本作の読みどころは知恵を尽くした交渉術にある。スケールが大きいのに、安易にスケールの大きさに頼っていない点も素晴らしい。そして、最終的には人と人が対峙する。

 事故の関係者が二つの陣営に分かれ、それぞれに同情の余地があることが、事態を複雑にする。交渉役を担う1人の男に、命運は託された? こんな政治家がいればいいのに。国会内の交渉もろくにできない現政府に、こんな交渉は無理だろうねえ。

 有川浩作品のお約束である恋愛模様は、正直とってつけたような印象があり、そちらに期待する読者には物足りないかもしれない。文庫版に書き下ろしで収録された「仁淀の神様」が、恋愛成分を補っている。高知愛全開なのもいいねえ。



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